スペインはラテンの享楽的なイメージそのままのお祭りのようなワインもあれば、切り立った山の上で作られる険しいワイン、大航海時代の冒険の香りを残したシェリー酒もあります。
乾燥して暑い土地もあれば、日本のように水と緑豊かな土地もあり、様々な土地の上にキリスト文化、イスラム文化、ケルト文化などが織り込まれ、まさに百花繚乱ともいうべき様相。
既に誰もが認めるグラン・ヴァンだけでなく、土着のブドウに焦点をあてた新しい作り手も多く、発掘のし甲斐があるというものです。
パティシエとして製菓店やカフェのマネージャーを経験。レストランサービスを学ぶため、関西のホテルレストランを中心に約10年以上勤務。ワインに興味がありソムリエ呼称資格を取得。
保有資格
・日本ソムリエ協会 ソムリエ呼称資格
・調理師免許
歴史、気候や地質といった風土
スペインは広く、幾つかのエリアに分けた方が気候風土を理解しやすい場所です。
まず、「暑く乾燥したスペイン」というステレオタイプ的なスペインワインは、「メセタ」と呼ばれる内陸の台地から生まれます。
暑いと聞くとイメージは悪いですが、標高も高い北部メセタには銘醸地リベラ・デル・デュエロもあり、スペインを代表する産地のひとつです。
逆に雨も日本と同じくらい多く、緑豊かなのがガリシア州。
リアス式海岸が多くあり、ミネラル感あふれる白やタイトな赤を作ります。
フランスに近いエリアはピレネー山脈のや大西洋、内地の気候影響が入り混じり、複雑です。
リオハがあるのもこのあたり。
中世にはスペインを舞台にキリスト十字軍とイスラム教徒の陣取り合戦が繰り広げられ、南東部にかけてムスリム文化も色濃く残ります。
こういった文化面の入り乱れ方も面白いところです。
スペインワインの主な生産地
台地の内陸部「メセタ」
スペインらしいと言えばスペインらしい、ステレオタイプに一番近いのが内陸の「メセタ」と呼ばれる台地。
マドリッドを真ん中にして、北はより標高が高い「カスティーリャ・イ・レオン」、南はラ・マンチャ平原が広がる「カスティーリャ・ラ・マンチャ」に大別されます。
北はリベラ・デル・デュエロD.O.など銘醸地もある場所。
南は生産量の多い平野で、ラ・マンチャD.O.やヴァルデペーニャスD.O.からコストパフォーマンスの高いワインが生まれます。
平野とはいえ、平均の標高は700mmと非常に高いのがユニーク。
以下の記事に詳しく記載しています。
カスティーリャ・イ・レオン、ラ・マンチャのワインの特徴とおすすめワイン3選多様な環境の「ピレネー山脈麓」
フランスとスペインの間にまたがるピレネー山脈の麓には、ナバーラ、アラゴン、バスク、リオハなどのD.O.があります。
この辺りでは、ピレネーからの吹きおろしの冷たい風、大西洋の安定した気候や湿度、そして内陸部の乾燥した気候が絡み合います。
場所や標高、山や川によって、どこからの影響が大きいのか、または影響を受けないのかが変わり、多様な環境が存在しているようです。
有名なリオハD.O.Ca.などは、南北を山脈に守られ、周りの影響をスポット的に受けない安定した気候で高級ワインが作られています。
また、独特の文化を持つバスク州は、美食の革新地としても有名です。
詳細は以下の記事をご覧ください。
リオハなどピレネー山脈ふもとのワインの特徴とおすすめワイン3選地中海の影響が強い「カタルーニャ&地中海エリア」
ピレネー山脈の影響を受けるカタルーニャから、地中海の影響を受けるエリア。
独立宣言をしたカタルーニャは、スペインが誇るスパークリングワイン「カバ」の中心地であり、1980年代からのプリオラートの躍進に刺激されて高級ワインの開発が進む地でもあります。
地中海沿いのバレンシアやムルシアでも、はっきりとメリハリのついた果実味があるワインが作られています。
詳細は以下の記事を参考にしてください。
カタルーニャ、バレンシア、ムルシアのワインの特徴とおすすめワイン3選今ホットな「緑と海のガリシア」
ポルトガルの北側にでんと乗っかっているのがガリシア地方。
緑豊かで雨も多く、「グリーン・ガリシア」と呼ばれる場所です。
リアス式海岸で有名な海側では、ジューシーさに岩塩のような引き締まりのある白が作られ、国境を越えてポルトガルのヴィーニョ・ヴェルデ地域と一緒に語られます。
山側では筋肉質で引き締まった赤ワインが。
新しいスター生産者も生まれてきている、今ホットな場所です。
詳しくは以下の記事をどうぞ。
ガリシア地方のワインの特徴とおすすめワイン3選シェリーで有名な「アンダルシア」
スペイン南端のアンダルシア州で有名なのは、何といってもシェリー。
製造の途中でブランデーをブレンドする「酒精強化」というジャンルに属するワインで、フロールという酵母の膜を張って熟成させたり、酸化熟成させたりと、独特の製法からくるコクを楽しめます。
また、アルコールが高いことから劣化しづらく、大航海時代には船旅のお供として重宝がられたようです。
アンダルシアのシェリーについては以下の記事をどうぞ。
シェリーで有名なアンダルシアワインの特徴とおすすめワイン3選スペインの主なブドウ品種
代表的な「テンプラニーリョ」
黒ブドウで代表的なのは「テンプラニーリョ」で、作付け面積はスペイン最大、かなり広い範囲で栽培されています。
酸や渋みがたちやすい品種でもあり、若い時はやや荒く角を感じるかも知れません。
熟成によって真価を発揮するとも言われています。
高級ワインも揃う「グルナッシュ」
グルナッシュはふっくらした肉厚な果実味が特徴。
フランスの南ローヌやラングドックでも頻繁に登場します。
カタルーニャ州のプリオラートでは、カリニャンと共に主役を張る堂々たる高級ワインを作りだしています。
注目品種「メンシア」
もう一つ、近年注目の土着品種はガリシア地方のメンシア。
スレートや石灰質の山岳地帯を中心に、タイトでミネラリーな赤ワインとなります。
ポルトガルでもジャエンという名前で栽培されており、こちらは比較的果実味が前に出てくる印象。
定番白ブドウ「ビウラ」
白ブドウではアイレンやビウラが広く栽培されています。
高質な白ワインを生み出すものとして、ルエダD.O.のヴェルデホや、リアス・バイシャスD.O.のアルバリーニョ、バルデオラスD.O.のゴデーリョが挙げられます。
格付けは原産地呼称が基本
スペインの格付けは、エリアごとの原産地呼称が殆どすべてで、ブルゴーニュのように地域名→村名→1級→特級という風な階層関係はほぼありません。
D.O.と呼ばれる67のエリアを分けるもの、より広い地域を名乗るV.C.、それ以外の地域でできたヴィノ・デ・ラ・ティエラ(I.G.P.)といったところ。
D.O.より上に位置する特選原産地呼称ワイン「D.O.Ca.」は、「リオハD.O.Ca.」と「プリオラートD.OCa.」の2つのみ。
また、その他にV.P.という優れた単一畑のワインをエリアに関係なく認める呼称があります。
フランスのA.O.C.のように厳密なピラミッド構造として考えるよりは、単純にエリアごとにD.O.があると覚えていた方が楽です。
(例外的に「カバD.O.」は幾つかの地域にまたがり許可されているD.O.です)
【ソムリエが選ぶ】おすすめのスペインワイン3選
バランスの良いメンシア「デスセンディエンテス・デ・ホセ・パラシオス ペタロス ビエルソD.O.」
プリオラートの名声を築いた「4人組」の一人、アルバロ・パラシオスが甥とビエルソにたてたワイナリーです。
ビエルソの山岳地帯で育てられたメンシアは、往々にして硬くインクで塗りつぶされたような印象を抱きますが、こちらは適度な果実味と適度なミネラル感でバランス良し。
ビエルソのメンシアは実力十分ですが、熱心なワインファン以外での知名度が低い状態です。
若手の小さな生産者も多く、どれも低価格のスタンダード・レンジの出来が良いので、色々と掘り出してみてください。
品質の安定した「クネ リゼルバ リオハD.O.Ca.」
ワイン売り場で見つけやすいクネ。
熟成年数が増えると、クリアンサ→リゼルバ→グラン・リゼルバと表記がランクアップします。
大きい生産者ですが、品質も安定しておりおすすめ。
テンプラニーリョとアメリカンオークの相性のよさが良く分かる一本です。
瓶内二次醗酵スパークリング「ロジャーグラート カバ ゴールド・ブリュット」
カバはスペインの瓶内二次醗酵スパークリングワイン。
瓶内二次醗酵というとシャンパーニュと同じ作り方で、高級なものを作る時に使うのですが、カバは千円台の安価なものから高級なものまで幅広くあります。
おすすめは色々あるのですが、カバの伝統的な品種を使っていて手に入りやすいロジャーグラートのこちらを。
他の産地のスパークリングと比べたい方は、シャルドネやピノ・ノワールで作られたものを、瓶内二次醗酵ならではのコクを楽しみたい方は、マカベオ、チャレッロ、パレリャーダの伝統品種を使った2~3,000円以上のものをおススメします。
まとめ
スペインは広い国です。
北東はフランスと接し、南のジブラルタル海峡を渡ればアフリカで、キリスト圏イスラム圏どちらの影響も色濃く受けています。
文化的にも、地理的にもバラエティ豊かなスペインには、まだまだ面白いワインが沢山。
色々なエリアのスペインワインを楽しんでください。