南イタリアは私たちが思う「イタリアらしさ」に一番近い場所ではないでしょうか。
観光では古都ナポリがあり、食文化でもいかにもイタリアっぽい、パスタ、トマト、オリーブの一大産地です。
ワインに関しては、「タウラージD.O.C.G.」や「アリアニコ・デル・ヴルトゥレD.O.C.」など、偉大なワインが存在します。
それもそのはず、南イタリアはギリシャからブドウがもたらされて以来ワインを作ってきた長大な歴史があるのです。
フィロキセラ禍や経済状況などで低迷していた時期もありますが、ここには偉大な品種、偉大な畑が残っています。
南イタリアを知るということは、イタリアワインのルーツを知ることと同意です。
ギリシャ人から「エノートリア(ワインの大地)」と称えられた、素晴らしいイタリアワインを見ていきましょう。
シチリア島、サルデーニャ島とあわせて紹介します。
イタリア全土の内容については以下の記事を参考にしてください。


パティシエとして製菓店やカフェのマネージャーを経験。レストランサービスを学ぶため、関西のホテルレストランを中心に約10年以上勤務。ワインに興味がありソムリエ呼称資格を取得。
保有資格
・日本ソムリエ協会 ソムリエ呼称資格
・調理師免許
南イタリアの主なワイン生産地
偉大な品種が眠る「カンパーニア州」
アリアニコ、グレコ、フィアーノという偉大な品種、ナポリやアマルフィなどイタリアを代表する景観を備えた、なんとも魅力的なカンパーニャ州。
南イタリアが誇る赤ワイン「タウラージD.O.C.G.」、優美な白「フィアーノ・ディ・アヴェッリーノD.O.C.G.」、貴族的に厳格な「グレコ・ディ・トゥーフォD.O.C.G.」を飲まずに済ますことはまず不可能です。
しかしながら、いくら素晴らしい品種や土地があろうと、その素晴らしさを理解し表現できる人間がいなければ、ブドウはワインになることはできません。
これらの偉大なブドウ達も、一時は経済的な困窮とフィロキセラ禍によって忘れ去られ、消え去ろうとしていました。
それを救ったのが、マストロベラルディーノ。
カンパーニャ州の話をする時には必ず名前が挙がる生産者です。
地元農家が栽培する地ブドウはマストロベラルディーノが購入して醸造することで、細々と生き残ってきました。
特に、古代ローマ時代から栽培され、蜂が寄ってくるほど甘い香りがあるとして大プリニウスが「ウヴァ・ピアーナ」と呼んだ「フィアーノ」。
これは、マストロベラルディーノが見出し、「ラディーチ」という優れたワインが造られたからこそ復活を果たしたブドウです。
酸味・渋みともに強い品種、アリアニコからは、長期熟成で本領を発揮する厳格な「タウラージD.O.C.G.」が、グレコからは、厚みのある果実味を硬くミネラリーな酸が縛り上げる白「グレコ・ディ・トゥーフォD.O.C.G.」が。
標高の高い火山の麓で作られるカンパーニャ州のワインは、南国のイメージとは裏腹に、容易に打ち解けることのない、貴族的なほどに誇り高いワインが作られています。
勿論、気楽に楽しめるものもあります。
ファランギーナ種のワインなどうってつけ。
パイナップルのような陽気な果実味とふっくらしたボディ、味を引き締める塩苦味など、フードフレンドリーなものができます。
アリアニコのもう一つの顔「バジリカータ州」
カンパーニャ州には「タウラージD.O.C.G.」があり、ここバジリカータ州には「アリアニコ・デル・ヴルトゥレD.O.C.」があります。
ヴルトゥレ火山の麓は冬には冷え込んで雪が降り、同じアリアニコで作られていても、華やかさの中にもどこか陰りがあり、控えめなエレガンスを感じさせるワインになります。
パワフル濃縮「プーリア州」
イタリア半島のかかとにあたるプーリア州は、小麦やオリーブの一大産地。
広い平野と、海の影響を受けた温暖で安定した気候で、食材の宝庫ですが、偉大なワインが作られているかどうかというと、少し考えてしまうような場所です。
むしろここでは、ブドウから出来ているワインも、豊かに実る野菜や果物と同じ文脈で見るべきでしょう。
プリミティーヴォやネグロアマーロといった濃厚な風味を持ったブドウと、温暖な気候が相まって、ふっくりふくよかで豊かな味わいを持ったワインが出来上がります。
かかとの付け根部分には石灰質の大地があり、やや涼しげなトーンも現れますが、基本的には南の太陽の恵みを受け取った、楽天的なほどにゆったりとした味わいになります。
偉大な島「シチリア島・サルディーニャ島」
地図で見ると分かる通り、シチリアはほとんどアフリカと言えそうな場所にぽっかりと浮かんでいます。
また、高級リゾート地のサルディーニャ島はシチリアに比べて遅れている感が否めませんが、個性的な土着品種から少しずつ面白いワインが出来てきています。
シチリア島から見ていきましょう。
ここは広いので大きく二つ、島の南端で作られる唯一のD.O.C.G.、「チェラスオーロ・ディ・ヴィットリア」と、エトナ火山で作られる「エトナD.O.C.」。
前者は、野性味がありパワフルなネロ・ダーヴォラ種と、爽やかな酸のあるフラッパート種のブレンドです。
ネロ・ダーヴォラ単体でも美味しいものはありますし、フラッパートは魚と飲む赤ワインという面白い個性を持っていますが、この二つが上手くブレンドされると1+1が3にも4にもなるような素晴らしいワインが生まれます。
ここはコスという作り手が、本当に美しいワインを作っています。
シチリアの活火山、エトナ火山の麓では、瑞々しく華やかなワインたちが作られています。
ブドウは赤のネレッロ・マスカレーゼやネレッロ・カップッチョ、白はカッリカンテ。
アフリカから熱風が届く、基本的に暑く乾燥したシチリアという土地と、雪が積もるエトナ火山の標高が複雑に絡み合い、エトナでは畑による味の違いも大きいと言われています。
味わいもさることながら、畑ごとの個性が作り分けられるようにもなっており、ブルゴーニュと比較されることも多い銘醸地です。
ティレニア海を北に駆け上がったサルディーニャ島は、カンノナウ、モニカ、ヌラグス、ナスコなど土着品種の多い産地。
花崗岩土壌のヴェルメンティーノから作られるD.O.C.G.「ヴェルメンティーノ・ディ・ガッルーラ」があります。
アルジオラスという生産者がずば抜けて素晴らしいワインを作っています。
加えて、シチリアでは良質の酒税強化ワイン「マルサラ」、サルディーニャ島ではシェリーにも似た「ヴェルナッチャ・ディ・オリスターノ」が作られており、このあたりも楽しいところです。
南イタリアの主なブドウ品種
南イタリアといえば「アリアニコ」
まずは南イタリアを代表する黒ブドウ、アリアニコ。
酸味も渋みも強く、北イタリアのネッビオーロと比較されることもあります。
強靭な筋肉で覆われた肉体美とも言えるような、贅肉の無いがっしりしたボディが特徴で、特に「タウラージD.O.C.G.」や「アリアニコ・デル・ヴルトゥレD.O.C.」など標高の高い場所で作られたアリアニコは熟成によって真価を発揮します。
比較的飲みやすいアリアニコを探す場合は、標高が低い場所や広域の格付けのものを目安にしてください。
果実味に溢れた「プリミティーヴォ」
プーリア州で見かけるプリミティーヴォはアメリカのジンファンデルと同じ品種。 濃く肉厚で果実味に溢れ、アルコール度数も高くなりがちです。
重くて濃いだけなのか、平板にならないような骨格やアクセントがあるのか、といったところで質の違いが見えてきます。
シチリア島のブドウ品種は多種多様
シチリア島では、野性味あふれるネロ・ダヴォラ、白ワイン的なフレッシュさのあるフラッパート、そしてエトナ火山でブルゴーニュのようにテロワールを映し出すネレッロ・カップッチョとネレッロ・マスカレーゼが重要な品種。
白ブドウのカッリカンテから意欲あるブルゴーニュ風のワインが作られることもあります。
主な白ブドウは「フィアーノ、グレコ、ファランギーナ」
南イタリアの白ブドウで外せないのが、フィアーノとグレコ、そしてファランギーナ。
フィアーノはリースリングにも似た、優雅な香りとエレガントな酸味があり、長く熟成させることができます。
余りに若いうちに飲んでも、ピンとこない品種かもしれません。
グレコはそれよりも実体があるというか、硬く手ごたえのある味わいになります。
蜂蜜のような香り、厚みのある味わい、塩苦さのある酸味が太く大きくバランスを取っています。
フィアーノはこの2つに比べるとカジュアルな味わいに仕上がり、親しみやすい品種です。
パイナップルを連想する香りや、ジューシーでトロピカルな味わいで、気軽に飲んでほしいワインが多くあります。
その他、南イタリアや島には、ほとんど知られていないブドウも多く、地ブドウの宝庫というべき様相を示しています。
ただ、カジュアルに飲めるスタイルに仕上げてあるものが多いので、知らない品種だからと言って恐れる必要はありません。
是非色々なものに手を出して、イタリアの豊富な地ブドウに触れてみてください。
南イタリアの格付けワイン
カンパーニャ州の格付けワイン
カンパーニャ州ではアリアニコ種の「タウラージD.O.C.G.」、白の「フィアーノ・ディ・アヴェッリーノD.O.C.G.」、「グレコ・ディ・トゥーフォD.O.C.G.」、この3つが毅然として存在します。
その他、「アリアニコ・デル・タブルノD.O.C.G.」は「タウラージD.O.C.G.」よりも標高が低く、親しみやすい特徴になります。
バジリカータ州の格付けワイン
何といっても「アリアニコ・デル・ヴルトゥレD.O.C.」。
D.O.C.G.の「アリアニコ・デル・ヴルトゥレ・スペリオーレ」もあります。
プーリア州の格付けワイン
色濃く密でチョコやプルーンのような風味を持つ「サリチェ・サレンティーノD.O.C.」「プリミティーヴォ・ディ・マンドゥリアD.O.C.」。
ちなみにプリミティーヴォはアメリカのジンファンデルと同じ品種です。
北へ上がればやや涼しい雰囲気の「カステル・デル・モンテ・ボンビーノ」系のD.O.C.G.がありますが、その中でも「カステル・デル・モンテ・ボンビーノ・ネーロD.O.C.G.」はロゼの格付け。
ともすれば過剰に濃くなってしまうプーリアのブドウを適度なバランスに仕上げるのに、ロゼのスタイルはうってつけ。
この格付け以外にも、プーリア州にはいくつか有名なロゼワインが作られています。
シチリア、サルディーニャの格付けワイン
シチリア唯一のD.O.C.G.、「チェラスオーロ・ディ・ヴィットリア」。
ネロ・ダーヴォラとフラッパートという個性の強いブドウをブレンドするため、ある意味作り手の力量が見える格付けでもあります。
「エトナD.O.C.」はざっくりとした格付けの中に環境の違う様々なエリアを有し、同じD.O.C.内でも作り手や畑によって表情が変わる面白い格付け。
同じ品種で土地の違いを表現していく、所謂ブルゴーニュ型の産地で、同じようなスタイルのバローロ同様クリュ化していく傾向にあります。
サルディーニャ島は「ヴェルメンティーノ・ディ・ガッルーラD.O.C.G.」が唯一のD.O.C.G.ですが、飛び抜けて品質の良い格付けも特になく、面白い地ブドウも多いので、細かい格付けにこだわらず色々試してみるのがおススメです。
【ソムリエが選ぶ】おすすめの南イタリアワイン
不死のワイン「マストロベラルディーノ ラディーチ タウラージ・リゼルヴァD.O.C.G.」
カンパーニャ州の立役者、マストロベラルディーノのタウラージ。
時に「不死のワイン」と呼ばれるほど頑強で長熟タイプのものなので、古めのヴィンテージをお勧めします。
無くてはならない生産者のワイン「フェウディ・ディ・サン・グレゴリオ フィアーノ・ディ・アヴェッリーノD.O.C.G.」
フェウディ・ディ・サン・グレゴリオも、今のカンパーニャワインを形作ったなくてはならない生産者。
手の届く価格からラインナップしてくれているのも嬉しいところ。
ここならばフィアーノもグレコ・ディ・トゥーフォもおススメです。
まとまりの良い「コス チェラスオーロ・ディ・ヴィットリアD.O.C.G.」
シチリア唯一のD.O.C.G.、チェラスオーロ・ディ・ヴィットリアの作り手の中でも飛び抜けてまとまりが良く、優雅ささえ感じるようなワインを作ります。
フラッパート単一のものも作っており、そちらも併せておススメです。
まとめ
南イタリアはイタリアワインのルーツを考えると、どうしても外せない産地になります。
グレコやフィアーノの高い酸とアルコールの硬さはギリシャの白ワインを思わせるし、厳格なアリアニコもどこか古代の貴族を思わせる佇まいです。
どうしても目立つD.O.C.G.を持つカンパーニャが中心となってしまいますが、南イタリアはまだまだ伸びしろがあるエリア。
有名無名関係なく、色々と試しがいのあるワインがこれからも沢山出てくるはずです。
出来ることなら、偏見なく知らないワインをどんどん試していってくださいね。