ボルドー地方の偉大な甘口ワイン、ソーテルヌの名声を支えてきた品種、セミヨン。
同様にボルドー地方のグラーヴ地区、ペサック・レオニャン地区で辛口のフルボディな素晴らしい白ワインも生み出しています。
ソーヴィニヨン・ブランとブレンドされることが多いために、また、高品質なセミヨンはどこででも手に入るというわけではなく、この品種から作られるワインの偉大さとは裏腹に、セミヨンが十分な名声を手にしているということは出来ません。
やや玄人好みのするブドウ品種、というのが世間一般の中でのセミヨンの立ち位置では無いでしょうか。
しかしながらセミヨンは、長期熟成で花開く偉大なワインをいくつも生み出している素晴らしいブドウ品種です。
偉大なワインを作る白ブドウ、セミヨンを紹介します。
パティシエとして製菓店やカフェのマネージャーを経験。レストランサービスを学ぶため、関西のホテルレストランを中心に約10年以上勤務。ワインに興味がありソムリエ呼称資格を取得。
保有資格
・日本ソムリエ協会 ソムリエ呼称資格
・調理師免許
セミヨンの特徴
セミヨンはフランスの南西部が原産と考えられています。
有名なボルドー地方ではなく、ベルジュラック近辺ではないかと言われています。
どっしりとしたマットなボディの、骨格がしっかりとしたワインになります。
一方で、酸味や香り立ちが穏やかな側面があるため、アロマティックでクリスプな酸味を持つソーヴィニヨン・ブランと伝統的にブレンドされてきました。
ソーヴィニヨン・ブランの香りと酸味、セミヨンのボディと長期熟成能力が組み合わさり、ボルドー地方では偉大なワインが生み出されています。
ひとつは有名な貴腐ブドウを使った甘口、ソーテルヌ・バルサック。
世界で最も高価な甘口ワインの一つ、ソーテルヌの名声を支えているのはセミヨンです。
もうひとつはグラーヴ地区やペサック・レオニャン地区で作られる辛口フルボディの白ワイン。
オークで熟成され、セミヨンのがっしりとした力強い骨格が十分に楽しめます。
有名なものとしては、ボルドー格付け1級のワイナリー、シャトー・オー・ブリオンが作るシャトー・ラ・ミッション・オー・ブリオン・ブランがあります。
そういったボルドー地方のスタイルとは真逆のセミヨンワインとして、オーストラリアのハンター・ヴァレーで作られるセミヨンがあります。
これは早めに収穫してフレッシュさを活かしたセミヨンで、ボルドー地方のものとは同じ品種とは思えないほどさらっとしたスタイル。
食事の気楽なお供としてぐいぐいも飲めますし、流石そこはセミヨンということで、しっかりと長期熟成することもできます。
栽培自体が特別に大変だという訳でもなく、収穫量も多めの品種なので、こういったスタイルも作られているのです。
マットな雰囲気の香り
麦わらやゴマ、ナッツのような香りや、粘土や冷たい石のようなマットな雰囲気の香りが特徴的。
洋ナシや白桃のようなフルーツフレーバーも感じられます。
力強い香りではあるものの、分かりやすく派手なタイプではありません。
果実の風味だけが突出せず、他の要素がしっかりと感じられるため、奥行きのある香りになります。
熟成をさせることで、麦わらの香りはどんどんと枯れた草の香りに変わり、ナッツやスパイス、ドライフルーツと黒糖のような香りと混然となっていきます。
しっかりとした味わい
穏やかな酸味、オイリーな舌触りと、後半に感じられるわずかなナッツのようなホロ苦み。
しっかりとしたボディが感じられます。
全体として何かが突出するわけでもない落ち着いた印象で、どっしりと腰の据わった重量感が長期熟成の可能性を感じさせます。
栽培地による違い
バランスの良い味わいの「フランス」
フランスでは主にボルドー地方で栽培されています。
主にソーヴィニヨン・ブランとブレンドされ、グラーヴ地区、ペサック・レオニャン地区では辛口のどっしりとしたフルボディタイプに仕上げられます。
セミヨンの厚いボディと麦わらの香りに、ソーヴィニヨン・ブランのハーブの香りや酸味が加わり、とてもバランスの良い味わいになります。
ボルドー地方のふたつの川に挟まれたアントゥル・ドゥ・メール地区では、セミヨン+ソーヴィニヨン・ブラン+ミュスカデルのブレンドで、よりフレッシュで軽い辛口に仕上げられます。
魚料理や鶏肉を使った料理などと楽しい味わいになります。
ソーテルヌ・バルサック地区では、貴腐ブドウを用いて偉大な甘口ワインが作られます。
貴腐ブドウは、カビの一種である貴腐菌がブドウの皮に小さな穴をあけ、そこからブドウの水分が蒸発することでレーズンのように糖分が濃縮された特殊なブドウ。
セミヨンの薄い皮と、朝に霧が出て昼からはサッと晴れ渡るこのエリアの気候が、貴腐ブドウに最適な環境を作り出します。
セミヨンとソーヴィニヨン・ブラン、ミュスカデルのブレンドから生まれる複雑さ、貴腐由来のコクと舌触り、味の構成要素が多く、非常に質の高い甘口ワインが生まれます。
とりわけソーテルヌのワインは長期熟成によって真価を発揮します。
価格も抑えめで、若くから楽しみやすいものとして、対岸にあるルーピヤック、セロン、サント・クロワ・デュ・モンなどもおススメです
奥行きと無機物的な香りの「オーストラリア」
オーストラリアのハンター・ヴァレーで作られるセミヨンは非常に独特のスタイル。
ハンター・セミヨンなどと呼ばれ、とてもユニークな立ち位置を占めています。
これはセミヨンを早い時期に収穫し、ステンレスタンクでフレッシュに醸造したもので、プチプチとした酸味と青く爽やかな香り、11パーセント程度の低いアルコール度数が特徴です。
ヨーロッパではなかなか見ることのできない面白いスタイルのセミヨンです。
これを10年以上熟成させても、セミヨンらしい奥行きのある香りと無機物的な香り、酸味とわずかに残るハーブ感の素敵な味わいに発展します。
また、ソーテルヌ風の貴腐ワインも作られており、デ・ボルドリ社のものなどがおススメです。
おすすめワイン3選
セミヨンを感じたいなら「クロ・フロリデーヌ グラーヴ・ブラン」
ソーヴィニヨン・ブランとセミヨンを同量程度、アクセント程度のミュスカデルというボルドー・ブランの基本的なブレンド。
ボルドー・ブランの権威、ドゥニ・ドュブルデューが所有するシャトーです。
樽熟成も加わり、しっかりとセミヨンの厚いボディと頑強なストラクチャーが感じられます。
ソーヴィニヨン・ブランもそれにあわせてトロピカルな表現を見せてくれ、白桃、グァヴァ、スイカなどを連想する香りになっています。
お手本のような良く出来たグラーヴの白です。
しっかりと甘い貴腐ワイン「シャトー・ドワジー・デーヌ」
クロ・フロリデーヌと同じドゥニ・ドュブルデュー所有のソーテルヌ。
セミヨン主体にソーヴィニヨン・ブランがブレンドされています。
しっかりと甘い貴腐ワインですが、石灰質由来のカッチリした輪郭と酸味があり後口は爽やかに流れます。
セミヨンの骨格はそのままに、優美に流れの良い表現に。
すでに2006年のヴィンテージが販売されていますが、まだまだ若くフレッシュな味わいかと思います。
今飲んで楽しむもよし、さらに熟成させて楽しむもよし、ソーテルヌの長期熟成能力が良く分かる一本です。
早摘みの爽やかなスタイル「ティレルズ シングル・ヴィンヤード スティーヴンス ハンター・セミヨン」
オーストラリアはハンター・ヴァレーのセミヨン。
アルコール度数も10~11パーセントと低く、早摘みの爽やかなスタイル。
基本的には柑橘系の香りが目立ちますが、現行で出回っているのが2012年ヴィンテージとやや古いものなので、ハンター・セミヨンの熟成感も感じられます。
独特の魅力を持つセミヨン。
セミヨンに合う料理
- 地鶏の炭火焼
- チキンのクリーム煮
- エビのグリル
- 甲殻類のグラタン
- かぼちゃグラタン
- 肉じゃが
- 白カビ系やウォッシュドタイプのもの
まとめ
中々その魅力が知られていないセミヨンですが、ボルドー高級ワインを支える品種のポテンシャルの高さは、飲むと分かってもらえると思います。
特に甲殻類との組み合わせはとても美味しい。
是非、ご家庭で、ワインバーでセミヨンを楽しんでみてください。