中部イタリアを代表する黒ブドウ、サンジョヴェーゼ。
キャンティやブルネッロ・ディ・モンタルチーノなど、トスカーナが誇る銘酒から、トラットリアで水代わりに出されるような日常酒まで作り出します。
サンジョヴェーゼは病気に弱く、上手に栽培するのが難しい品種ですが、その分敏感に土地の味を映し出します。
そういった点では、ピノ・ノワールを引き合いに出すつくり手もいるほど。
個性が掴みにくい品種だと思っている人もいるでしょうし、廉価なサンジョヴェーゼのトゲトゲしたイメージを持っている人もいるかもしれません。
サンジョヴェーゼは栽培される土地、育った年の気候、作り手のスタイルによって様々に変化するブドウです。
色々なサンジョヴェーゼを見て行きましょう。

パティシエとして製菓店やカフェのマネージャーを経験。レストランサービスを学ぶため、関西のホテルレストランを中心に約10年以上勤務。ワインに興味がありソムリエ呼称資格を取得。
保有資格
・日本ソムリエ協会 ソムリエ呼称資格
・調理師免許
サンジョヴェーゼの特徴

サンジョヴェーゼはイタリアで最も栽培されている黒ブドウ。
トスカーナ州を中心に、エミリア・ロマーニャ州やマルケ州、フランスのコルシカ島でも盛んに栽培されています。
果皮は薄く、病気に弱い品種で、成熟するまで時間のかかる晩熟型ということもあり、理想的な状態に栽培するのが難しいとされています。
そのため、栽培環境によって様々に味わいを変化させます。
加えて、サンジョヴェーゼには多数のクローンがあることも有名。
クローンごとの差も大きく、殆ど別品種のように扱われることもしばしばです。
よく知られているのは粒が大きく果皮も厚いサンジョヴェーゼ・グロッソ。
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノなどで栽培されている品種で、香りも渋みも強くボリュームのある味わいになります。
また、小粒のサンジョヴェーゼ・ピッコロや、ヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチャーノで栽培されているプルニョーロ・ジェンティーレなどが広く知られています。
熟成は大樽やコンクリートタンクな微量の酸素を通すものと相性がよく、時に暴れがちな酸味や渋みを丸く馴染ませてくれます。
ボルドーのように小樽フレンチオークで熟成させることもありますが、サンジョヴェーゼの繊細な香りが樽風味に負けてしまわないように、収量を落として凝縮したブドウを用いる必要があります。
こういった場合は、往々にしてカベルネ・ソーヴィニヨンやメルローなどボルドー系の品種とブレンドされます。
カベルネやメルローの個性が強いので、それがサンジョヴェーゼの個性を覆い隠してしまうこともありますが、上手くブレンドされたものはボディや骨格としなやかで優しい表情を兼ね備えたワインになります。
香り
ブルーベリーや酸味を連想するチェリーのような香り。
若いうちは梅や鉄、インクの香りがすることもあり、しっかりと凝縮したタイプのものからはタバコの葉や皮製品、アニスやシナモンの香りが出ます。
華やかさ、明るさをイメージする果実香が魅力ですが、果実以外の香りもかなり出てくるので、人によっては初めとっつきにくいこともあります。
味わい
程ほど~やや多めの渋みと、サンジョヴェーゼと分かりやすい酸味。
特にピリッとした印象をもたらす酸味は、トスカーナ沿岸地域のもの。
クローンごとの味わいのばらつきが大きいので、一括りにすることは出来ませんが、この酸味がアクセントとなって味わいが出来ていることが多いブドウです。
しっかりと凝縮したものは高いレベルで味わいのバランスが取れていますが、質の低い廉価なものも、このアクセントのある味わいのお陰で食卓では活躍してくれます。
シノニム
ブルネッロ(モンタルチーノ近辺)、モレッリーノ(トスカーナ州マレンマ近辺)、ニエルッキオ(コルシカ島)など、様々な呼び名があります。
サンジョヴェーゼの主な栽培地
イタリア

サンジョヴェーゼは主にイタリア中部で栽培されています。
その中心部はトスカーナ州。
内陸の山あいのエリアでは、キャンティが生み出されます。
特にその中心部であるキャンティ・クラッシコは標高も高く、ガレストロと呼ばれる片岩土壌で水はけ良好。
ピシッと引き締まったボディと香り高さが引き出された、スタイリッシュなサンジョヴェーゼが出来上がります。
そこからやや南西、海側に向かうと有名なブルネッロ・ディ・モンタルチーノのエリアがあります。
19世紀後半にビオンディ・サンティがこの地でサンジョヴェーゼのポテンシャルを引き出し、1990年代のブームで高級ワインとしての揺ぎ無い地位を築きました。
ここではサンジョヴェーゼ・グロッソという大粒で果皮も分厚いクローンが栽培されており、大柄でボリュームあるワインが生まれます。
しっかりした渋み、完熟した果実香を支える酸味と力強い香り。
堂々とした体躯に、サンジョヴェーゼの華やかな側面が見え隠れする、魅力的なワインです。
多くのワイナリーがセカンド的に作っているロッソ・ディ・モンタルチーノは、早くからその魅力を感じることが出来ておススメです。
そのまま海沿いへ向かうと、そこは新しい銘醸地。
ボルゲリやマレンマという場所のサンジョヴェーゼは、海沿いらしい大らかな広がりを持つジューシーなスタイル。
カベルネなどボルドー系品種の栽培が盛んな場所ですが、モレッリーノ・ディ・スカンサーノ(マレンマ近辺ではサンジョヴェーゼをモレッリーノと呼びます)など、魅力的なサンジョヴェーゼの産地がそろっています。
忘れられがちですが、見逃せないサンジョヴェーゼのもう一つの個性がヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチャーノ。
マルケ州にも近い山中にある地域で、プルニョーロ・ジェンティーレというクローンを中心に栽培されています。
若いうちはやや控えめで、内にこもったパワーが感じられる程度ですが、熟成させると少しずつカシスやブルーベリーの果実感や、花のような香りが表に出てきます。
アヴィニョネージがリーダー格となってエリア全体を盛り上げています。
また、イタリア中央に走るアペニン山脈を越えて東側のエミリア・ロマーニャ州では、サンジョヴェーゼ・ディ・ロマーニャのクローンが。
どろっと味の抜けが悪いワインか、しゃばくて薄酸っぱいワイン、量産型のイメージが付きまとっていた地域ですが、近年の質の向上は眼を見張るものがあります。
どっしりと構えた広がりのある味は、キャンティなど山あいのサンジョヴェーゼには出せない個性です。
フランス

地理的にはフランスというよりイタリアのコルシカ島でもサンジョヴェーゼは活躍しています。
ニエルッキオと呼ばれ、ジェノヴァ共和国時代にイタリアから持ち込まれ、土着化したと考えられています。
島北部の石灰質土壌と相性がよく、A.O.C.パトリモニオなど、島を代表するワインを作り上げます。
その他の国
その他、アメリカやニュージーランド、そしてイタリア系移民の多いアルゼンチンやオーストラリアでも栽培されていますが、どこでも見かける品種というわけではありません。
イタリアのサンジョヴェーゼがどれだけ貴重な個性かが良く分かります。
サンジョヴェーゼに合う料理
- ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ(子牛の骨付きステーキ)
- カツオのたたき
- 豆サラダ
- ソラマメのパスタ
- コンテ
- パルミジャーノ・レッジャーノ
- ペコリーノ・トスカーノ
オススメのワイン
フォントディ D.O.C.G.キアンティ・クラッシコ
キアンティ・クラッシコを代表する生産者。
華やかな香りとしなやかな力強さ、山のワインらしくしっかりとした骨格が感じられる堂々たる一本。
モリスファームズ D.O.C.G.モレッリーノ・ディ・スカンサーノ
トスカーナ州海沿いのサンジョヴェーゼ。
キャンティと比べジューシーで伸びやかな味。
やや鉄の香りがアクセントとなり、全体にピリッとした締りを与えます。
アヴィニョネージ D.O.C.G.ヴィーノ・ノービレーディ・モンテプルチャーノ
トスカーナ州の隠れた銘酒。
マルケ州に近い山の中で栽培されています。
静かな香り、ゆっくりとその魅力を見せてくれます。
しっとりとした落ち着き、どっしりとした安定感のあるボディ、サンジョヴェーゼの懐の深さが味わえます。
まとめ
サンジョヴェーゼはネッビオーロやアリアニコと並び、イタリアを代表する黒ブドウのひとつです。
ブルゴーニュのピノ・ノワールに比較されることの多いネッビオーロと異なり、環境によって様々に味わいを変えるブドウだという認識が余りされていませんが、実に様々な表情を見せてくれます。
栽培地も山、海、平地と幅広く、産地別の飲み比べで個性を掴むのもおススメ。
それにしてもフードフレンドリーなワインになるので、食事と一緒に楽しんでみてください。