こちらの記事ではフランスとスペインの境目、ピレネー山脈のふもとエリアのワインについて紹介します。
スペイン側はバスク州、ナバーラ州、アラゴン州があり、有名なリオハD.O.Ca.があるエリア。
フランス側に行くと、シュッド・ウエスト、ラングドック・ルシヨンがあります。
フランス側同様、スペインでもこのエリアはピレネー山脈、大西洋、地中海の影響を受けることになります。
そこにスペイン内陸部の乾燥した気候の影響も加わり、場所によってそれぞれの影響の大きさが変わってくる、といった具合ですね。
スペイン全体の大まかなワインの特徴については以下の記事をご覧ください。
スペインワインの特徴とおすすめワイン3選パティシエとして製菓店やカフェのマネージャーを経験。レストランサービスを学ぶため、関西のホテルレストランを中心に約10年以上勤務。ワインに興味がありソムリエ呼称資格を取得。
保有資格
・日本ソムリエ協会 ソムリエ呼称資格
・調理師免許
ピレネー山脈ふもとの主なワイン生産地
このエリアの気候要素を大まかに分けると、
- ピレネー山脈の吹き降ろしの風
- 大西洋からの安定した気候と湿度
- 内陸部からの乾燥した暑さ
となります。
大西洋側にあるバスク州は雨が多く、アルコール度数も低めの白ワインを作ります。
アラゴン州は広い州ですが、ピレネー山脈に近いソモンターノD.O.なんかは山間の斜面が多い山地で、逆にスペインのメセタ台地に近いカラタユドD.O.などは大陸性気候の産地。
俯瞰して見たときの位置関係に加え、山があれば風をブロックし、川があれば気候を安定させる、そういった細かな要素で、究極には畑ごとに違いが生まれてきます。
随一の産地「ラ・リオハ州」
リオハD.O.Ca.では、そういった細かい“テロワール”の違いを作り分けようと、単一畑の表示が2017年ヴィンテージから許可されました。
リオハはスペイン初のD.O.Ca.として名高い銘醸地です。
南北を山脈に守られ、中央にはエブロ川が通っている地形から、周囲の影響を受けず安定して独立した気候を保っています。
元来がフィロキセラ禍によって全滅したフランスワインの穴埋めをするような形で発展した場所なので、ボルドー式に小樽で熟成させるスタイルが多数を占めています。
樽熟成の期間に応じて、クリアンサ→レゼルバ→グラン・レゼルバとランクアップしていくリオハワインは、長期熟成に耐えて花開く優美な赤ワインを生み出す一方で、テロワールに基づいたワインが訴求できないという批判もありました。
リオハの代表的な作り手アルタディがD.O.Ca.を脱退したことで頂点に達したこの不満は、最終的に原産地呼称委員会が単一畑、村名、サブゾーンの表示を認めることで一応の決着を見ました。
今後はブルゴーニュのように、細かいテロワールを作り分けるワインが増えることと思いますが、ヴィーニャ・トンドニアに代表されるような長期熟成のリオハもまた魅力的です。
いずれにせよ、スペイン随一の産地であることに間違いはありません。
広大な産地「ナバーラ州」
リオハの東側に広がるのが、ナバーラD.O.。
広い産地です。
ロゼの輸出で一時期有名になり、その後はカベルネ・ソーヴィニヨンなど国際品種を取り入れたスタイルで品質向上を進めています。
ピレネー山脈側の北部は、西風が吹き、カベルネ・ソーヴィニヨンの収穫が12月までずれ込むこともあると言います。
一方で南側は地中海の影響も多少受け、暑い地域があるようです。
また、ナバーラ州には巡礼路の合流地点があり、昔からフランス方面との交流があったとのこと。
フランスの品種やフレンチオークを取り入れ近代化を進めた現在のナバーラをイメージさせるような話です。
ガルナッチャで有名な「アラゴン州」
リオハD.O.Ca.の中心を通っているエブロ川を下って東へ向かうと、アラゴン州になります。
こちらもカベルネ・ソーヴィニヨンなど国際品種を取り入れたスタイルでワインを作っています。
平地から山裾の斜面にも畑があり、「ソモンターノD.O.」は山のふもとという意味の名前のとおり、ピレネー山脈のふもとにあります。
「ソモンターノD.O.」はいち早く国際品種を取り入れたスタイルで売り出し、アラゴン州の他の産地に刺激を与えました。
また、「カリニェナD.O.」は黒ブドウ品種カリニャンの原産地と考えられています。
とはいえこのエリアではカリニャンよりもガルナッチャ(グルナッシュ)の栽培の方が多いそうです。
微発泡の白ワインで知られる「バスク州」
リオハの陰に隠れてしまっているナバーラやアラゴンとは違い、かなりキャラクターが強いのがバスク州のワイン。
バスク語を公用語とし、スペインからの独立志向も高いこのエリアでは、「チャコリ」という微発泡の白ワインが有名です。
D.O.は3つ。
チャコリ、と言われてまず連想するのは、爽やかな味わいの「チャコリ・デ・ゲタリアD.O.」。
高い位置からコップに注ぎ落とす提供スタイルで有名です。
そしてゲルニカ周辺で作られる、よりしっかりとした「チャコリ・デ・ビスカイアD.O.」と唯一海に面していない「チャコリ・デ・アラバD.O.」があります。
バスク州は緑豊かで雨も多いエリア。
ブドウ栽培も日本と同じような、棚仕立てでされており、アルコール度数も低めになる傾向にあります。
スペインの美食をリードする美食の町でもあり、ヌーベル・キュイジーヌを昇華した軽やかな現代版のバスク料理や、一品料理のピンチョスはスペインのみならず世界中に影響を与えています。
ピレネー山脈ふもとの主なブドウ品種
しっかりとした骨格の「テンプラニーリョ」
スペインで広く栽培されているテンプラニーリョは、リオハD.O.Ca.で一つの完成系を見せます。
特に標高の高い西側のリオハ・アルタでは酸、渋みなどの骨格がしっかりし、長期熟成タイプのものが出来ます。
近年の単一畑表示の動きの中で、ブルゴーニュのように土地の味わいを映し出したものが更に増えてくると予想されます。
注目の品種「ガルナッチャ(グルナッシュ)」
東側のリオハは標高が低く、長い間軽んじられてきましたが、このエリアに残っている古木のガルナッチャ(グルナッシュ)が注目されています。
ガルナッチャもテンプラニーリョ同様、広く栽培されていますが、ブレンドに使われることが多く、そんなに目立つことはありませんでした。
アルコール度数が上がりやすく、肉厚な果実味を持つ一方、選ばれた畑で優れた作り手が仕上げると、ストラクチャのしっかりとしたものや、ピノ・ノワールにも似た優雅な味わいが現れることもあります。
ナバーラやアラゴンではガルナッチャを主役とした高品質ワインはあまり見かけませんが、カタルーニャ州のプリオラートや、例えば南アフリカなどでは大活躍している品種なので、今後が楽しみでもあります。
スパイシーな品種「カリニェナ(カリニャン)」
野性味があり、強めの酸味とスパイシーな香りを持つカリニェナ(カリニャン)は、アラゴン州の同名の産地、「カリニェナD.O.」原産とされています。
ガルナッチャ同様、ブレンドに使われることが多いですが、やや個性的な特徴が出やすいため、ブレンド比率は低めのことが多いです。
ブレンドが多い白ブドウ
そしてこのエリアの白ブドウは、ビウラ(マカベオ)、マルヴァジア、ガルナッチャ・ブランカ。
大体の白ワインがこれらのブレンドで作られています。
ビウラなどはリオハの長期熟成タイプの白ワインのメインブドウになっています。
また、品種名としてはあまり知られていませんが、バスク州のチャコリワインに使われるのがオンダラビ・スリ。
海沿いの爽やかな白ワインを生み出します。
熟成期間での格付け
スペインには熟成期間での格付けがあります。
330ℓ以下のオーク樽で熟成させたものに限り、熟成期間が長くなるにつれて「クリアンサ」→「レゼルバ」→「グラン・レゼルバ」と表示が変わっていきます。
前述の熟成期間V.S.テロワールの悶着を経て、リオハD.O.Ca.では新しく地区名、村名、単一畑名の表示を可能にする法改正が行われました。
今後は見慣れない畑名を掲げたリオハワインが増えてくると思われます。
また、リオハD.O.Ca.ではこれと同時にスパークリングワインの生産が新しく認められます。
製法はシャンパーニュと同じ、瓶内二次発酵。
これらの法改正で、リオハD.O.Ca.から面白いワインがたくさん出てくるかもしれません。
Vino de Pago(V.P.)はナバーラ州に3つ、アラゴン州に1つあります。
V.P.とは特定のユニークな特徴を持つ畑から造られたカリスマ性のあるワインに与えられるもので、ある意味グラン・クリュのような位置づけのもの。
銘醸地であるリオハやリベラ・デル・デュエロなどからV.P.が選出されていないことからこれを疑問視する声もありますが、一定以上の品質を保証していることは間違いありません。
- パゴ・デ・アリンサノV.P.(ナバーラ州)
- プラド・デ・イラチェV.P. (ナバーラ州)
- パゴ・デ・オタスV.P. (ナバーラ州)
- パゴ・アイレスV.P. (アラゴン州)
【ソムリエが選ぶ】おすすめのピレネー山脈ふもとのワイン3選
濃厚な味わいの中に綺麗な酸味「アルタディ ヴィーニャス・デ・ガイン Vino de Mesa」
リオハを代表する作り手の一人、アルタディ。
色々あって「リオハD.O.Ca.」を脱退してしまったので、格付けはテーブルワインのヴィノ・デ・メサです。
リオハの中でも「リオハ・アラベサ」というバスク州の地区でワインを作っています。
濃厚な味わいの中に綺麗な酸味が一本通っており、標高の高いエリアのワインらしい骨格が感じられます。
伝統を引き立たせる「ドメーヌ・ルピエール エル・テロワール ガルナッチャ ナバーラD.O.」
ナバーラの東部、ピレネー山脈にも近いバハ・モンターニュの生産者。
国際品種が目立つナバーラ州において、伝統品種のガルナッチャのポテンシャルを引き出している頼もしい作り手です。
気軽な微発泡「チョミン・エチャニス チャコリ・デ・ゲタリアD.O.」
バスク州の爽やか微発泡白ワイン、チャコリです。
コップに勢いよく注ぐ提供方法や、魚介との相性、アルコール度数の低さなど、使い勝手は抜群。
あまり難しく考えず、気軽に飲んでみてください。
まとめ
このエリアではリオハD.O.Ca.が圧倒的に目立ってしまいますが、バスクのチャコリなども独特ですし、ナバーラ州やアラゴン州でも少しずつ面白い動きが出てきています。
リオハの単一畑表示などもそうですが、少しずつ変わってきているように思える産地ですので、面白そうなワインを見つけたら、教科書的な見方を忘れて試してみるのも一興ですよ。