こちらの記事では、北イタリアのワインをメインに紹介します。
北イタリアは陸続きで他国と接しており、様々な国家の統治を受けた歴史を持っています。
フランスのサヴォイア家やハプスブルク家、オーストリア=ハンガリー二重帝国…
そういった背景もあり、イタリア語圏以外にもフランス語圏、ドイツ語圏、スロヴェニア語圏などが存在しています。
ワインの味も、イタリアというよりドイツっぽい、フランスっぽい、スロヴェニアっぽい、と感じるかもしれません。
北イタリアは一度国境を忘れて覚えていきましょう。
パティシエとして製菓店やカフェのマネージャーを経験。レストランサービスを学ぶため、関西のホテルレストランを中心に約10年以上勤務。ワインに興味がありソムリエ呼称資格を取得。
保有資格
・日本ソムリエ協会 ソムリエ呼称資格
・調理師免許
北イタリアの主なワイン生産地
北イタリアの地形は、
- アルプス山脈やドロミーティ山塊の山あい
- よりなだらかな丘陵地帯
- ヴェネト州南部やエミリア・ロマーニャ州のような平野
などに分けることができます。
Google Mapを地形モードにして北イタリアを見てもらえば、ダイナミックに地形が変わっていく様を実感していただけるかと思います。
アルプス山脈、白ワインの名産地「トレンティーノ=アルト・アディジェ州」
イタリアで一番北に位置する山奥の産地。
ドイツやオーストリアから水の都ヴェネツィアをつなぐ街道の役割もあり、詩人のゲーテや画家のデューラーなど、多くの人々がこの地を訪れています。
北部はドイツ語圏でもあり、「ドイツ人以上にドイツ的」とも言われるそうです。
ここの名産はドイツ系品種の白ワインと、瓶内二次発酵の本格的なスパークリングワインですね。
カジュアルなピノ・グリージョやミュラー・トゥルガウ、ピノ・ビアンコをはじめ、透明感のあるリースリングや香高いゲヴュルツトラミネールなど、イタリア屈指の白ワイン産地です。
特にゲヴュルツトラミネールは、アルト・アディジェ地方のトラミン村が原産とも言われています。
また、質の高い協同組合があることでも有名で、安価なものでも比較的ハズレが少ないエリアとしてもオススメです。
もう一つの名産、トレントD.O.C.という瓶内二次発酵のスパークリングワインもあります。
イタリアワインファンでなければ馴染みがないと思いますが、山岳地帯の透き通った味わいと陰のある表情は、華やかなフランチャコルタとはまた違った味わい深さがあります。
アルプス山麗の丘陵地「ピエモンテ州」
イタリアのブルゴーニュとも呼ばれる高額ワインの産地がここ、ピエモンテ州。
「山の麓」という意味の名前の通り、アルプス山脈の麓に広がる丘陵地です。
長い間フランスのサヴォイア家に支配されてきた土地で、食文化にもワインにも、フランスとの類似性が見られます。
ピエモンテ州を代表する、
- 「バローロD.O.C.G.」
- 「バルバレスコD.O.C.G.」
の2つはブルゴーニュワインと似て、単一品種で土地の味を表現、長期熟成で真価を発揮するワインです。
同じネッビオーロというブドウで作られていても、緻密で力強いバローロとヌケが良く華やかなバルバレスコの違いが生まれます。
現在はブルゴーニュ同様、クリュの制定がなされており、より細かく土地の味を楽しめるものが増えています。
この二つの銘柄は高額なものが多いため、ネッビオーロでよりお手軽なものを探す場合は「ロエロD.O.C.G.」や広域の「ランゲD.O.C.」で探してみるとよいでしょう。
また、若くから楽しめるバルベーラ種やドルチェット種の赤ワインも、日常酒としておススメです。
山から平野へ「ロンバルディア州」
ロンバルディア州は山岳地帯から丘陵地帯、平野部とヴァリエーション豊かな地形を持っています。
北の山間から見ていくと、山岳地帯のワインとして挙げられるのが「ヴァルテッリーナD.O.C.」で、バローロやバルバレスコで使われるのと同じネッビオーロというブドウから作られます。
標高も高い山のワインで、縦にスーッと伸びるような清らかな味わいがあります。
バローロやバルバレスコに比べ、果実味などは控えめで、より陰りのあるネッビオーロですね。
山を下り、イゼオ湖の南に広がるのが、イタリア最高峰のスパークリングワインの産地「フランチャコルタD.O.C.G.」。
製法も品種も、シャンパーニュのイタリア版と考えて良いでしょう。
低めのガス圧で、絹のように滑らかな舌触りの「サテン」というタイプもあり、その優美な味わいから非常に人気です。
ロンバルディア州南部に広がるのはポー平野、さらに南へ進めばエミリア・ロマーニャ州に入ります。
ここは平野部にありがちな、大量生産の産地でしたが、近年は収量を押さえて高品質なものを作ろうとしているようです。
「オルトレポ・パヴェーゼ・メトド・クラシコD.O.C.G.」というピノ・ノワール主体の瓶内二次発酵スパークリングが注目に値します。
ランブルスコの「エミリア・ロマーニャ州」
ロンバルディア州から南に進むとここエミリア・ロマーニャ州です。
平野部ではカジュアルに楽しいスパークリング赤ワイン「ランブルスコ」が作られています。
一時期、甘口のランブルスコが日本でも流行しましたが、辛口のものなどは食中にも飲みやすく、大変オススメです。
エミリア・ロマーニャ州南東部には石灰質の丘陵地があり、ここではサンジョヴェーゼも栽培されています。
アペニン山脈を越えると、そこはサンジョヴェーゼ王国のトスカーナ州で、なんとなくここで育てられているイメージも付きますね。
エミリア・ロマーニャ州のサンジョヴェーゼは、トスカーナ州のものと比べて平板で濃いものが多い印象でしたが、最近では酸味が縦に伸びる綺麗なスタイルも増えてきました。
豊かな平野地「ヴェネト州」
ロンバルディア州の東、エミリア・ロマーニャ州の北がヴェネト州。
ポー平野が広がり、イタリアでは珍しく、大部分が平野部という地形です。
ここでは、軽やかでカジュアルに飲めるスパークリングワイン「プロセッコ」が作られています。
高品質でシリアスなスタイルのものもありますが、基本は安くて手に入りやすくてカジュアルなプロセッコが楽しい産地。
友人と気楽に家飲みなどする際にはぴったりのスパークリングです。
また、西側のガルダ湖付近からは、丘陵地でより質の高いワインも作られています。
陰干しブドウで作られる、どっしりとした赤ワイン「アマローネ」は飲みごたえ抜群。
貴腐を含むワイナリーと、通常のブドウだけでクリーンな味をもとめるワイナリーとが存在し、しっかり濃い味わいの中にもいろいろなスタイルがあります。
もう一つは、イタリア白ワインの代表格、「ソアーヴェD.O.C.G.」。
余りの人気に大量生産に走り、質を落とした歴史があるため、ジーニ、アンセルミ、ピエロパンといった一流生産者たちは逆に「ソアーヴD.O.C.G.」を名乗らずにソアーヴェを作っています。
ここは逆説的ではありますが、「ソアーヴェD.O.C.G.」を名乗らない3つの生産者を飲むことが「ソアーヴェ」のポテンシャルを知る近道になります。
北イタリアの主なブドウ品種
白はドイツ系品種を中心に、爽やかなタイプが多く、赤は有名なネッビオーロに愛され地ブドウのドルチェットやレフォスコなどがあります。
白ワインのブドウ品種
白であれば、酸が美しく伸びていくリースリング、香高いゲヴュルツトラミネール、予想外にトロピカルな厚みを持つソーヴィニヨン・ブランの他、よく見かけ気楽に飲める品種としてピノ・グリージョやピノ・ビアンコを挙げることができます。
山岳地帯で作られているものは、クリアで透明感ある味わいが特徴。
産地の紹介では取り上げてはいませんが、スロヴェニアと国境を接するフリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州では、どっしりと腰の据わったフリウラーノやリボッラ・ジャッラ、トラミネールなどもあります。
特にここの(ゲヴュルツ)トラミネールとトレンティーノ=アルト・アディジェ州のゲヴュルツトラミネールを飲み比べると非常に違いがはっきりしていて面白いです。
赤ワインのブドウ品種
赤だと圧倒的に有名なのがネッビオーロ。
高級銘柄「バローロ」、「バルバレスコ」を生み出すスーパースターです。
同じ高級路線であれば、「アマローネ」という銘柄がありますが、こちらは単一品種ではなく、コルヴィーナ、ロンディネッラ、モリナーラなど複数のブドウをブレンドして作られています。
その他、レフォスコ、ドルチェット、バルベーラ、テロルデゴなど、日常酒として愛されている地ブドウも、見かけたら試す価値ありです。
北イタリアの有名な格付けワイン
イタリアワインの格付けについて以下の記事を参考にしてください。
ソムリエが選ぶ!イタリアワインおすすめ3選、産地や品種の特徴と格付けワインも紹介スパークリングワインなら「フランチャコルタD.O.C.G.」
何といってもイタリアのシャンパーニュ「フランチャコルタD.O.C.G.」は外せません。
高品質でカチッとまとまった味わいの中にも、明るく陽気な雰囲気がにじみ出ていて、ハレの日には欠かせないワインです。
逆に普段の日から楽しく飲みたいスパークリングが「プロセッコ」。
冷蔵庫に常備しておきたい、気楽なワインです。
他にも、ほのかに甘くて香高いアスティD.O.C.や、味わいの陰りがカッコいいトレントD.O.C.などがあります。
白ワインは「ソアーヴェD.O.C.」
白ワインだと「ソアーヴェD.O.C.」。
前述の通り、素晴らしいソアーヴェを飲みたければ、D.O.C.G.を名乗っていないピエロパン、ジーニ、アンセルミが造るワインをお試しあれ。
トレンティーノ=アルト・アディジェ州の白ワインは、どれも透明感がありクリア。
フリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州では骨太なリボッラ・ジャッラや、赤ワインのような飲みごたえがあるオレンジワインなど、北イタリアで白ワインに困ることはありません。
赤ワインは「バローロD.O.C.G.」と「バルバレスコD.O.C.G.
何といっても「バローロD.O.C.G.」と「バルバレスコD.O.C.G.」。
そこからネッビオーロつながりで「ヴァルテッリーナD.O.C.」や「ガッティナーラD.O.C.G.」「ゲンメD.O.C.G.」を試してみるのも良いでしょう。
このあたりはクリュ制定の動きもあり、畑ごとに表現が違うので、飲み比べには困りません。
また、アマローネも懐に余裕があればぜひお試しください。
【ソムリエが選ぶ】買いやすいおすすめの北イタリアワイン3選
北イタリアを紹介すると、どうしても高級なものが多くなってしまいます。
なので、今回は高すぎず手に入るものをご紹介します。
ワインをあまり飲まれない方は、北イタリアの味を知る手立てとして、ワイン通の方はまだ飲んだことのない味わいを探す参考として見て頂けると嬉しいです。
コスパの良い「マッテオ・コレッジア ロエロ・ロッソ」
「バローロ」や「バルバレスコ」に比べ、ネッビオーロの柔らかさやチャーミングさが良く出ているのが「ロエロ」エリアのワイン。
その中でもマッテオ・コレッジアのものは滑らかな舌触りや適度なグリップなど、完成度が高くおススメです。
爽やかでクリアな「ケットマイヤー ミュラー・トゥルガウ」
トレンティーノ=アルト・アディジェ州のワイン。
ここの白ワインはどれを買っても大きく外れることはありません。
なので、どれをおススメしても良いのですが、ネットでも手に入れやすいこちらをおススメしておきます。
さっぱり爽やか、クリアで嫌みの無い白ワイン。
薄濁りの微発泡「デ・ステファニ プロセッコ」
無濾過、薄濁りの微発泡プロセッコ。
スペックは少し変わっていますが、気楽に飲める点は通常のプロセッコと同じです。
このワイナリーは逆にシリアスなスタイルのプロセッコも作っているので、気になる方はそちらもどうぞ。
まとめ
ヴァラエティに富んだイタリアワインですが、アルプスの麓から広いポー平野まで、北イタリアは特にそれが顕著なエリアです。
地形面の違いに加え、歴史の中で多文化との交流も多く、ひとことでまとめられない面白さがあります。
高級銘柄ばかりが目立ってしまう場所でもありますが、農家が昔から愛飲しているような地ブドウも多い場所。
知らない銘柄を見つけたら、ぜひ試してみてください。