古代から栽培されており、食用からワイン用ブドウまで広く活躍するミュスカ。
私達と馴染み深いマスカットと同じブドウだといえば、その人気も納得です。
ミュスカから作られたワインは、マスカットの甘い香りが香る、とてもお洒落な味わいがします。
歴史を紐解けば、クレオパトラが好んで口にしたり、ナポレオンが最後に口にしたいと望んだワインがミュスカワインだったりと、様々な場面でその名前を目にすることが出来ます。
世界中どこを探しても嫌いな人はいないであろう、愛されブドウのミュスカを見て行きましょう。
パティシエとして製菓店やカフェのマネージャーを経験。レストランサービスを学ぶため、関西のホテルレストランを中心に約10年以上勤務。ワインに興味がありソムリエ呼称資格を取得。
保有資格
・日本ソムリエ協会 ソムリエ呼称資格
・調理師免許
ミュスカの特徴
ミュスカは古代、ギリシャ・ローマ時代から人々に愛され、地中海で広く栽培されてきました。
そのため、一口にミュスカといっても、その中には様々なタイプが存在しています。
その中で、最も質の高いワインになるといわれるのが、ミュスカ・ブラン・ア・プティ・グランというもの。
いわゆるマスカットの甘い香りや洋ナシ、ハーブを思わせるような爽やかな香りがあり、華やかで上品なワインを生み出します。
また、マスカット・オブ・アレクサンドリアというタイプは特にスペインやギリシャで活躍。
オレンジブロッサムのような力強い香りがありますが、洗練の点ではミュスカ・ブラン・ア・プティ・グランに一歩劣ります。
その充実した味わいは酒精強化ワインに最適で、南アフリカの「ヴァン・ド・コンスタンス」はかのボナパルト・ナポレオンがセントヘレナ島に幽閉されているときも毎日のように愛飲していたといわれています。
その他として、ミュスカ・オットネルとミュスカ・ハンブルグが存在します。
オットネルは香りも穏やかで、前者2つのタイプと比べると個性に乏しいニュートラルなブドウ。
栽培の容易さから好まれ、アルザス地方でも広く栽培されています。
そのため、一口にミュスカといっても、期待するような方向性が無いことも多く、注意が必要。
ハンブルグは基本的に食用として知られていますが、日本のマスカット・ベーリーAはこのハンブルグから生まれたブドウです。
香り
マスカットの甘く爽やかな香り。
香り立ちが華やかなアロマティック系ブドウとして知られています。
栽培される地域やミュスカのタイプにもよりますが、オレンジ、マスカット、洋ナシの香りが強く出たり、そこにレモンピールやカモミール、フェンネルなどの爽やかな香りが加わる上品な香りのものがあったりと様々。
味わい
軽やかな酸味が出る辛口のものが多い。
凝縮感というよりも、瑞々しさが良く出ているものが多く、全体的にフレッシュで爽やかな味わい。
甘口に仕立てられることも多く、その場合はぎゅっと詰まった香りと、その中にも明るさを感じる酸味があり、重すぎずバランスが良いワインになります。
シノニム
- モスカート(イタリア)
- ジビッボ(シチリア)
- モスカデル(スペイン)
- ムスカテラー(オーストリア、北イタリア)
- ゲルバー・ムスカテラー(オーストリア、北イタリア)
ミュスカの主な栽培地
フランス
フランスでは辛口のアルザス地方と、甘口・酒精強化の南仏がメイン。
アルザス地方では栽培面積こそ広くないものの、グラン・クリュを名乗ることが出来る「高貴品種」として大切に育てられています。
砂質や石灰質土壌に好んで植えられ、ミュスカらしい伸びやかさや軽やかさがしっかり出ているものが味わえます。
南仏では基本的に甘口ワインとして活躍。
甘口スパークリングのクレレット・ド・ディーや、ヴァン・ドゥ・ナチュレのmyフスカ・ド・ボーム・ド・ヴニースはローヌ地方の魅力的なワイン。
そこから更に地中海にくだり、ラングドック・ルーション地方に至ると、甘口ミュスカの一大産地が広がっています。
ミュスカ・ド・フロンティニャン、ミュスカ・ド・リュネル、ミュスカ・ド・リヴザルト、ミュスカ・サン・ジャン・ド・ミネルヴォワはいずれもミュスカをベースとした酒精強化ワイン。
醗酵途中のブドウ果汁にアルコールを添加して甘みを残す、ヴァン・ド・ナチュレと呼ばれるスタイルのワインたちです。
力強いフロンティニャンやリュネル、そしてカチッとした輪郭と酸味が感じられるミネルヴォワ。
ミュスカが好きならばどれも一度は飲んでおきたいワインたちです。
イタリア
北イタリアはピエモンテ州のモスカート・ダスティが代表的なミュスカのワイン。
低アルコールで甘みを残した爽やかなスパークリングワインで、価格も比較的安く、容易に手に入れることが出来ます。
スーパーなどで出回っているモスカート・ダスティは質もそこそこ、飲んでいて楽しいアペリティフ向けのものが多いですが、小さなつくり手が造る、量より質タイプのモスカート・ダスティの中には気品にあふれ感動的な品質を備えているものもあるので一概に軽く見ることは出来ません。
また、地中海の真ん中に浮かぶシチリア島ではミュスカのことをジビッボと呼び、果実味ある辛口や甘口が作られています。
辛口のジビッボなど、海の幸の香草焼きや、イワシとオレンジのオーブン焼きなどにぴったりです。
オーストラリア
忘れてはいけないのがオーストラリア。
ヴィクトリア州北部のラザグレンでは、果皮の色が濃いブラウン・ミュスカを用いてフルボディのがっしりした酒精強化ワインが作られています。
元々果皮が濃いミュスカを使っている上に、アルコールの添加、樽熟成、過熱を行う独特の作りなので、非常に香味複雑。
日本で見かけることはあまりありませんが、これもミュスカの酒精強化ワインを語る上では外せない銘酒です。
おすすめのワイン
チュスラン ボーレンベルグ ミュスカ
フランスはアルザス地方の辛口ミュスカ。
石灰質土壌で育てられ、ミュスカのクールな緊張感が前面に出ています。
洋梨やマスカットの香りにレモングラスやアップルミント。
紅茶のような爽やかで高級感のある香りが楽しめます。
ベルナルダン ミュスカ・ド・ボーム・ド・ヴニーズ
フランス、ローヌ地方南部のヴァン・ドゥ・ナチュレ。
発酵途中の果汁にスピリッツを加え、甘さを残したまま仕上げる酒精強化ワインです。
マスカット、アプリコット、タルトタタンやバター、ハチミツ、ディルなどの香りがぐっと詰まり、飲みごたえあるミュスカになっています。
ラ・スピネッタ ブリッコ クアリア モスカート・ダスティ
北イタリア、ピエモンテ州の微発泡のモスカート。
アルコール度数も低く、甘味がある飲みやすいタイプのワインです。
そんな親しみやすい味わいの中にも、スペアミントやオレガノの清涼感、冷たい石を想像させるキリッとした輪郭があり、凛とした表情を見せるところは、流石スピネッタの作るワイン。
ワインをあまり飲まない方は勿論、甘口微発泡というだけで軽く見ていた人にこそ、改めて口にしてほしい良質なお酒です。
ミュスカに合う料理
- 鶏つくね
- ささ身(わさびで)
- イワシとオレンジのパン粉焼き(ベッカフィーコ)
- 香草焼き
- ハーブサラダ
- アスパラガス
- コンテ
- パルミジャーノなどハード系のもの
※甘口にはビスコッティやスパイスクッキー、クグロフやパンデピスもおススメです。
まとめ
ミュスカは食用ブドウでおなじみのマスカットの香りがあり、とっつきやすい一方で、一口にミュスカと言っても色々なタイプがある奥深い品種です。
それもこれも、古来から人々に大切にされてきたことの証。
是非、お気に入りの一本を見つけてみてください。