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日本生まれ、日本育ちのマスカット・ベーリーA|品種の特徴とおすすめワイン

ここ数年、特に盛り上がりを見せる日本ワインブーム。
お陰でマスカット・ベーリーAの名前を耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。

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カベルネやシャルドネ、ピノなど、有名なヨーロッパ系ブドウ品種と並んで、ワイン用ブドウとして活躍しているベーリーAですが、これは日本で生まれ、日本で育った国産の品種です。

日本の気候に適応して、日本のワイン文化を力強く支えてくれるベーリーA。
近年では質・スタイルともに広がりを見せており、ますます目が離せなくなってきています。
それではその魅力を見て行きましょう。

マスカット・ベーリーAの特徴

マスカット・ベーリーAの写真
参照元:マスカット・ベーリーA(ベリーA)

マスカット・ベーリーAは日本で生まれたブドウ。
20世紀初頭に、川上善兵衛という人物によって交配されました。

川上善兵衛は日本ワインを語るうえで避けては通れない人物で、日本ワインの父と呼ばれています。

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Wikipedia By Unknown author – 『全国篤農家列伝』愛知県農会, Public Domain, Link

川上善兵衛は現在の新潟県出身。
国内でも有数の豪雪地で、まともに米が収穫できるのは3年に1度という厳しい地域で育ち、「殖産興業・国利民福」の理念を郷土で達成しようと考えるに至りました。

幕末の志士、勝海舟との交流からワイン用ブドウ栽培の可能性に気付き、自ら葡萄園を開いて新しい産業としたのです。

川上善兵衛が日本の気候に合うブドウの開発に心血を注ぎ、マスカット・ベーリーA以外にも様々な品種を生み出したこの葡萄園は、今も岩の原葡萄園としてブドウの栽培・ワイン作りを続けています。

さて、マスカット・ベーリーAは、アメリカ系のベーリー種と、ヨーロッパ系のマスカット・ハンブルクの交配から生まれました。
特に気候が適していた山梨県を中心に、川上善兵衛が開いた葡萄園がある新潟や山形、岡山、島根などでも栽培されています。

アメリカ系ブドウの血を引いているため、「フォクシー・フレーバー」と呼ばれる香りがあり、ひとつの特徴となっています。
ナイアガラやコンコードからも強く感じられる香りで、グレープジュースの甘ったるい鼻にこもる様な香りがフォクシー・フレーバー。

我々日本人からすると、馴染みのある良い香りなのですが、これは実はワインの世界では嫌われる香りなのです。
フォクシー・フレーバーは往々にして強く、出来上がるワインは一面的で奥行きのない印象になってしまうからです。

それもあってか、以前はほんのりと甘味を残したジュースのようなスタイルが中心でしたが、現在は辛口のものが主流に変わってきました。
その中でも、この香りを活かしているものから押さえているものまで、様々なスタイルがあります。

ステンレスタンクでシンプルに醸造し、その果実味を活かした気軽なものや、樽で熟成させて、このブドウに不足しがちな骨格と奥行きを持たせたもの、マセラシオン・カルボニックを用いて軽やかに楽しめるスタイルに仕上げたもの・・・
更にはロゼワインやスパークリングワインまで本当に多様なワインが作られるようになりました。

また、山梨県の穂坂町のベーリーAのように、しっかり熟したものはフォクシー・フレーバーも控えめで、ワインらしい構成と奥行きのあるものになります。
このような優良エリアのブドウは軽く樽で熟成されることが多く、これも味の構造と奥行きを付与する要因になっています。

2013年にはO.I.V.(Office International de la vigne et du vin 国際ブドウ・ワイン機構)にも品種登録され、世界的にもワイン用ブドウとして認められることになりました。

香り

フラネオールという成分を多く含み、イチゴやパインキャンディのような香りが特徴的。
また、土のような香りも強く、果実の香りと相まって紅芋を連想することもあります。

前述の通り、アメリカ系ブドウの血が混ざっているため、独特のフォクシー・フレーバーも特徴の一つ。
その甘やかな香りは、ヨーロッパ圏のワイン観からすると避けるべきオフ・フレーバーではありますが、私たち日本人からするとどこか懐かしいノスタルジックな印象を受け、好感が持てるものです。
とは言え、あまりにこの香りが強すぎると平板で面白みのないワインにしかならないため、中価格帯以上のワイン作りではなるべくこれを抑える傾向にあります。

味わい

ボリュームは中程度で、軽い渋みと新鮮な酸味が感じられます。
舌触りもふわっと優しく、親しみやすいスタイルが得意なブドウです。
よくフランス、ボージョレ地方の並みのガメイと比較されますが、樽で熟成させたしっかりしたタイプでも、あまり重々しい味わいにはなりません。

マスカット・ベーリーAの主な栽培地

日本

日本のイラスト

山梨県が中心となって栽培されています。

特に韮崎市の穂坂町で栽培されたものは質が良いことで知られています。
降水量が他のエリアに比べて少なく、逆に日照量は豊富で、しっかりと熟した風味を持つベーリーAが収穫されます。

穂坂町のべーリーAは、果実の香りが凝縮して感じられ、フォクシー・フレーバーも控えめ。
良く熟したイチゴや、ブルーベリーの皮を連想するようなザラッとした厚い果実味。
独特の土っぽい香りがアクセント程度に感じられ、奥行きがある堂々とした味わいです。
飲みごたえは中程度ながら余韻が長く、しっかりとした存在感のある印象を残します。

また、新潟県でもベーリーAは力を入れて栽培されています。
新潟県はベーリーAのふるさと。

1890年(明治23年)に川上善兵衛がこの地に岩の原葡萄園を開き、この地でマスカット・ベーリーAを開発したのです。
日本の気候に合うブドウを開発するために、川上善兵衛はなんと1万311回の品種交配を行ったそうです。

その他、山形県や果樹栽培に適した島根県、岡山県でも栽培されています。

マスカット・ベーリーAに合う料理

肉類

肉類のイラスト

  • 焼き鳥(タレ)
  • 治部煮など
魚介類

魚のイラスト

  • カツオのたたき
  • サンマなど
野菜類

野菜のイラスト

  • 筑前煮
  • カポナータ
チーズ

チーズのイラスト

  • チーズフォンデュ
  • モンドールなど

オススメのワイン

ダイヤモンド酒造 シャンテY.A ティント

ステンレスタンクでシンプルに醸造したベーリーA。
搾りたての果汁のようなフレッシュな味わいと言えば簡単そうですが、シンプルに作ったベーリーAでこのレベルは中々無いと思います。
素材の良さ、醸造のセンスの良さが感じられる1本。

シャトー・メルシャン 穂坂マスカット・ベーリーA

山梨県の中でもトップクラスのベーリーAを生み出す穂坂エリア。
個人経営の小さなワイナリーが注目を集めている昨今ですが、日本ワインを牽引してきたのは大手ワイナリーです。
グッと奥行きが増し、存在感のある余韻。
山梨・長野の中でも優れたエリアのブドウをワインに仕立てているシャトー・メルシャンのワインは、日本のテロワールを学ぶのに最適です。

岩の原ワイン 深雪花

新潟県のベーリーA。
ここは川上善兵衛が拓き、ベーリーAを生み出したその葡萄園です。
ほんわかと優しい味わいはこのブドウの面目躍如。

まとめ

ここ最近では、カベルネ・ソーヴィニヨンやピノ・ノワール、シャルドネなどヨーロッパのワイン醸造用品種で質の高いワインが作られるようになってきました。

それと同時に、日本で生まれたベーリーAのワインもどんどん進化しています。

ヨーロッパ系品種で作られた日本ワインと違って、価格が上がりすぎないという点も魅力。
日常で楽しめるワインから、国際的に戦える奥行きを持ったワインまで、幅広いスタイルが可能なので、私たちが手にする機会も多く、間違いなく日本ワインを牽引していく主要なブドウです。