寒く、ブドウが完熟しにくい場所でこそ活躍する救世主、ミュラー・トゥルガウ。
ドイツを中心に、厳しい寒さや病害など、ブドウ栽培に困難がある環境では様々な品種改良が行われてきましたが、どれも中々品質がともなわず、広まったブドウは数えるほどしかありません。
ミュラー・トゥルガウはそんな成功した新しい品種の代表格です。
ドイツ、オーストリアを始めとし、ワイン用ブドウの完熟に課題が残るここ日本でも栽培されています。
パティシエとして製菓店やカフェのマネージャーを経験。レストランサービスを学ぶため、関西のホテルレストランを中心に約10年以上勤務。ワインに興味がありソムリエ呼称資格を取得。
保有資格
・日本ソムリエ協会 ソムリエ呼称資格
・調理師免許
ミュラー・トゥルガウ特徴
ミュラー・トゥルガウはリースリングとマドレーヌ・ローヤルから生まれた人工交配品種。
人工交配と言っても、遺伝子組み換えではありません。
異なる品種間の受粉、その後の世代の栽培と観察を主に行うのがワイン用ブドウの品種改良です。
ミュラー・トゥルガウが生まれたのは1882年。
トゥルガウ州出身のスイス人植物学者、ヘルマン・ミュラー博士によって交配され、ワイン用ブドウとして広く用いられるに至りました。
はじめはリースリングとシルヴァーナ―の子供だと思われていましたが、DNA解析の結果、リースリングとマドレーヌ・ローヤルの子供だったことが分かっています。
ヨーロッパでは、19世紀に立て続けにブドウ畑を襲った病害・虫害をきっかけに、様々な品種改良が行われてきました。
ヨーロッパ中のブドウ畑を壊滅状態に陥れたフィロキセラ禍はあまりにも有名ですが、現在その対策として用いられている台木などは品種改良の大きな成果と言えます。
現在もベト病やウドンコ病などへの耐性を持つ品種(PiWiと総称されます)の開発がされています。
耐寒・耐病などを目的とした交配品種で知られているものは、レゲント、ツヴァイゲルト、ミュラー・トゥルガウ、ケルナー、ショイレーベ、日本ではマスカット・ベーリーAなどがありますが、ミュラー・トゥルガウはその中でも最も広く栽培されています。
早熟な品種で、ドイツなどヨーロッパの寒いエリアでも安定して熟したブドウが収穫できる嬉しい品種。
品質、収穫量ともに一定の水準を満たす優等生。
平地であっても、寒い年でも、雨が多くても、毎年安定して房を実らせてくれます。
味わいも誰にでも好まれるような可愛らしさがあります。
フレッシュで爽やかなスタイルを得意とし、若飲みタイプのワインに仕上げられることがほとんど。
シュトゥルム(発酵途中の半ブドウジュース・半ワイン状態を楽しむもの)や新酒として楽しまれたりもします。
爽やかなフルーツの香り
青りんご、ナシ、マスカットのような爽やかで瑞々しいフルーツの香り。
香りのボリュームは強すぎず、弱すぎず。
シンプルでフレッシュな魅力があります。
質の良いものは、白桃やミントのトロピカルなニュアンスや、冷たい石のような緊張感のある香りを感じることができます。
酸味と爽やかな辛口
多くはフレッシュな酸味がある爽やかな辛口です。
ミディアム・ボディ程度の飲みごたえで、酸味が強すぎるということも無く比較的親しみやすい味わい。
上質なものは、酸味や樽の風味などに頼らない骨格を持ち、ピュアで透明感のある味わいを楽しむことができます。
フレッシュさが持ち味なので、樽熟成されることはありません。
ワインにボディを持たせるためには、シュール・リー(発酵後、澱と共にしばらくワインを寝かせておく方法)が選択されます。
シノニム
リヴァーナー、リースリング=シルヴァーナ(以前はリースリングとシルヴァーナ―の人工交配と思われていたため、このように呼ばれることがありました。現在は用いられないシノニムです。)
ミュラー・トゥルガウ主な栽培地
フレッシュな味わいのドイツ
リースリングなどには不向きな、比較的平坦な畑などでも育つため、広い範囲で栽培されています。
一時期はドイツ国内でのブドウ用ワイン栽培面積最大のブドウとなっていました。
ラインヘッセン地方やバーデン地方で特に広い栽培面積を持ちますが、ドイツ中の低価格帯のワインに用いられています。
フレッシュでフードフレンドリーな特徴から、日常で楽しみやすいワインが多く作られています。
広く栽培されているオーストリア
ドイツに次いで広く栽培されているが、オーストリアを代表する白ブドウ、グリューナー・フェルトリナーのように目立ったポジションにあるわけではありません。
ドイツ同様、若いうちに楽しまれるワインになり、他の品種とのブレンドや新酒、シュトゥルムとして楽しまれています。
一味違う北イタリア
北イタリアはトレンティーノ=アルト・アディジェ地方で栽培されています。
このエリアはドイツ・オーストリアの文化圏に属し、ドイツ語とイタリア語が話されています。
栽培されているブドウ品種も、リースリングやミュラー・トゥルガウとドイツ系のものが多く見受けられます。
アルプス山脈の麓に位置する畑から、瑞々しくピュアな、そして明るいだけでなく適度な緊張感を持ったミュラー・トゥルガウが生み出されています。
甘口で軽めな日本
ミュラー・トゥルガウは耐寒性が高いので、主に北海道で栽培されています。
アルコール度数が低く、半辛口・半甘口に仕上げられるものが大半ですが、甘口として仕上げられることもあります。
いずれも軽めのボディで、重たさのないアペリティフ向けのワインとなります。
おすすめのワイン3選
リンクリン ミュラー・トゥルガウ ロー・サルファー
ドイツ南部、フランスのアルザス地方と国境を接するバーデン地方のミュラー・トゥルガウ。
リンクリンはビオディナミ農法でブドウを栽培する生産者で、このミュラー・トゥルガウもビオディナミです。
フルーティでフレッシュですが、食事と合わせても味がぶれない芯の強さがあり、お肉料理などしっかりした食事にもおススメです。
ケットマイヤー ミュラー・トゥルガウ アルト・アディジェ
北イタリアはアルプスの麓、アルト・アディジェのミュラー・トゥルガウ。
ラベルにも小さく印字されていますが、ここはズュート・チロルと呼ばれ、北イタリアというよりは「南チロル」といったオーストリア文化圏のエリアになります。
フレッシュで瑞々しい味わい、フルーティな親しみやすさの中にもひやっとした冷たい緊張感や陰りが感じられる、ニュアンスに富むミュラー・トゥルガウ。
北海道ワイン 北島秀樹 ミュラー・トゥルガウ
日本ワインブームで耳にすることの増えた余市町で栽培されたミュラー・トゥルガウのワインです。
度数も低め、ほんのり甘味を感じるやや辛口に仕上げられており、冷やして食前酒・前菜と飲むのにピッタリ。
洋梨やリンゴに白い花の香りで上品な味わいが楽しめます。
ミュラー・トゥルガウに合う料理
- ソーセージ
- サラミ
- ポークハム
- サワラの西京焼き
- キスの天ぷら
- カルパッチョ
- ハーブとリンゴのサラダ
- ピクルス
- アスパラガスのベーコン巻き
- 白カビ系やフレッシュチーズなど
まとめ
親しみやすく爽やかで、それでいて上質なものも2,000~3,000円程度で手に入れることができる、とてもありがたいミュラー・トゥルガウ。
リースリングやグリューナー・フェルトリナーなどの有名品種の影に隠れて、日本ではあまり重要視されているようには見えませんが、日常の食卓ととても相性の良いブドウです。
日本でも手に入りやすく、上質なものとしては北イタリア産のミュラー・トゥルガウがおススメ。
是非見かけたら試してみてください。