日本を代表するブドウ、甲州。
最近ではその名前を聞いたことのない人の方が少ないくらい有名なブドウになりました。
収穫の時期に山梨のブドウ畑を訪れたことがある方ならご存知の通り、甲州は白ブドウと言ってもうっすらと紫/ピンク色かかった外観をしていてとても綺麗です。
人工的に交配されたマスカット・ベーリーAと異なり、甲州は日本固有の土着ブドウですが、そのルーツをたどるとなぜかヨーロッパ系ヴィティス・ヴィニフェラの血を引いています。
日本のブドウの中では、ワイン醸造用ブドウとして非常にポテンシャルの高い位置にいるブドウなのです。
日本が誇るワイン用ブドウとしての甲州を紹介します。
パティシエとして製菓店やカフェのマネージャーを経験。レストランサービスを学ぶため、関西のホテルレストランを中心に約10年以上勤務。ワインに興味がありソムリエ呼称資格を取得。
保有資格
・日本ソムリエ協会 ソムリエ呼称資格
・調理師免許
甲州の特徴
甲州は日本固有の土着ブドウです。
ヨーロッパ系のヴィティス・ヴィニフェラと、中国系のヴィティス・ダヴィーティの血を引いており、山梨県が原産だと考えられています。
何故ヨーロッパ系ブドウの血筋が日本の土着品種の中から見つかったのかは謎に包まれていますが、高品質なワインを作る遺伝子を持っているというのは喜ばしいことです。
甲州の発祥については2つの説が有名です。
- 平安時代末期に雨宮勘解由が甲斐国八代郡祝村でブドウを発見し、持ち帰って栽培したものが広まったという「雨宮勘解由説」。
- 平安時代から更にさかのぼり奈良時代に行基が大善寺を建立した際、ブドウの樹を発見した、これが甲州の樹であったという説です。
どちらの説からも、古い時代からこの甲州が日本に存在していたということが分かります。
基本的には生食で親しまれてきたようで、本格的にワイン醸造に用いられるようになったのは明治時代以降のことです。
ここ日本はヨーロッパに比べて雨が多く、日照量も少ない土地です。
おまけに成熟期から収穫期にかけて台風がやってくるという、ワイン用ブドウ栽培にとっては決して恵まれた環境とは言えません。
日照量が不足して、収穫したブドウの糖度が足らず、アルコール発酵してもワインに十分なボディをもたらすことができないため、補糖したり、甘味を残しでふくよかさを感じさせるというスタイルが今でも多く見られます。
ブドウの十分な糖度は今でも多くのワイナリーが直面する課題です。
甲州から作られたワインも、水っぽいわりに後口に渋みや苦みが残る、あまり上質なものではないように見られてきました。
しかしながら近年では、栽培・醸造の技術発展が著しく、ヨーロッパのワインと肩を並べて評価されるようなのも現れてきています。
とくに甲州の可能性を広げたものとして、3MHという香り成分の発見がありました。
これはソーヴィニヨン・ブランにも含まれる香り成分で、グレープフルーツやパッションフルーツなどの香りとして認知されるものです。
ボルドー大学の故・富永博士とシャトー・メルシャンが共同研究を行い、この香味成分をワインの味わいに反映させるべく、栽培・収穫・醸造方法の工夫が行われました。
その成果はシャトー・メルシャンの「甲州 きいろ香」というワインで知ることができます。
その他にも、甲州ワイン一般に広く行われているシュール・リー製法(白ワイン発酵後、細かい滓とともにしばらく寝かせてボディに厚みを加える方法)や、果皮や種ごと発酵させる醸し発酵でオレンジワインのスタイルにするなど、様々な製法が試みられています。
繊細で爽やかな香り立ち
青りんごやライム、レモンなどの柑橘の香りと、コリアンダーや三つ葉などのハーブ系の香り。
ワインによってはグレープフルーツのニュアンスが感じられます。
繊細な香りを保つために、ステンレスタンクで酸素に触れないような醸造を行うことが多く、やや還元した煙のような香りを感じることもあります。
香りはくどくどしくなく、適度なボリューム感と好ましい表現のワインに仕上がります。
軽く優しい味わい
酸味は比較的穏やかなため、爽やかでクリスピーという味わいではなく、フレッシュながらゆったりとリラックスした果実味が舌の上で感じられます。
後口にほんのりとほろ苦さを感じ、味わい全体を引き締める役割を果たしています。
甲州の栽培はほとんどが山梨県
甲州のほとんどが山梨県で栽培されています。
とくに、甲州市勝沼町は甲州の一大産地になっており、勝沼ぶどう郷駅に降り立つと、一面ブドウ畑の景色が目の前に広がっています。
標高の高い菱形地区や、日照時間の長い勝沼地区、祝地区などの細かい産地区分がワインのラベルに書かれているのを見ることもあるのではないでしょうか。
中でも勝沼地区の中にある「鳥居平」の畑は、最高峰の甲州を生み出す銘醸畑として有名です。
また、日本一の日照時間を誇る北社市の甲州も、爽やかな香りの中にカッチリとした味の骨格がありユニーク。
日本にしては豊富な日照量と、降水量の少なさからヨーロッパ系ブドウが主に栽培されていますが、甲州からも質の良いワインが生まれています。
その他、大阪や山形でも栽培されています。
ソムリエ厳選!おすすめの甲州ワイン
柑橘フレーバー豊かな「シャトー・メルシャン 甲州 きいろ香」
前述の3MHという香味成分を十分に活かした、柑橘フレーバー豊かな甲州。
爽やかでありながら果実味の充実、味わいの凝縮感が感じられ、見事な一本。
この研究の中心人物であったボルドー大学の故・富永博士が愛した黄色い鳥にちなんで、「きいろ香」と名付けられています。
しっかりとした骨格の「グレイス グリド甲州」
大変人気の高い売り切れ続出のワインです。
薄紫色をした甲州の果皮を上手く使った白ワイン。
甲州のプレス果汁を用いワインにしているため、果皮の香り成分や渋み、苦味が引き出され、ワインの味わいにしっかりとした骨格が感じられます。
青りんご、洋ナシにコリアンダーやショウガなどハーブのタッチ。
香りのボリュームは控えめでも、きちんとした奥行きがあり、味わいの力強さも感じられる。
お刺身などと楽しみたい味わいです。
グリド甲州のソムリエによるワイン評価レビューはこちらからご覧いただけます。
個性的な味わいの「ココ・ファーム・ワイナリー 甲州F.O.S.」
F.O.S.はFermented on skinsの略。
赤ワインを作る時と同じように皮や種ごと発酵させた甲州ブドウのワインで、甲州から作られるオレンジワインの先駆けとも言えます。
皮が薄紫色をした甲州は、ポリフェノールも豊富。
濃いオレンジ色としっかりとした渋みの個性的な味わいに仕上がっています。
黄桃、アンズやカツオブシの香り。
渋みがあるので脂の多い料理ともよく合います。
甲州に合う料理
- チキンソテー
- ささみの梅肉和え
- タイのこぶ締め
- ちらし寿司
- しめ鯖
- レンコンの酢漬け
- アスパラガスのベーコン巻き
- フレッシュチーズや白カビ系のもの
まとめ
ここ最近の日本ワインブームで、甲州ワインも随分と楽しまれるようになってきました。
決してワイン用ブドウの栽培に適しているとは言えない日本の気候のもとで生まれた、様々な試行錯誤が、甲州ワインの多様なスタイルを生み出しています。
逆境から生まれた様々な味わいというのも、飲み手を楽しませ、感動させるもののひとつなのかもしれません。
2010年には国際ブドウ・ワイン機構O.I.V.が甲州を品種登録、EUでも「Koshu」と品種を表示して販売することができるようになりました。
日本国内だけでなく、海外でも確実に認められてきているのです。
これから更に注目されていくであろう甲州、今のうちに試してみてはいかがでしょう。