フルーティで厚みのある味わいのグルナッシュは、ブレンドでワインにされることが多い品種です。
魅力もあれば欠点もあり、例えば房を実らせすぎる性格や、アルコール度数が高くなりやすいといった特徴を持っているため、単体で優れたワインになる品種ではないとみなされていたようにも思います。
しかし、最近ではグルナッシュの素晴らしさを十分に伝えるワインが手に入るようになり、他の品種同様に畑・栽培・醸造次第でポテンシャルを発揮することが知られています。
プリオラートの緊張感あふれるスリリングな味わいや極限まで丸みを帯びたシャトー・ヌフ・デュ・パプ、南アフリカをはじめとする新世界の新しい作り手が手掛ける華やかなスタイルなど、スタイルも様々。
新たに発見されつつあるグルナッシュの魅力を見ていきましょう。

パティシエとして製菓店やカフェのマネージャーを経験。レストランサービスを学ぶため、関西のホテルレストランを中心に約10年以上勤務。ワインに興味がありソムリエ呼称資格を取得。
保有資格
・日本ソムリエ協会 ソムリエ呼称資格
・調理師免許
グルナッシュの特徴

グルナッシュはスペインのアラゴン原産と考えられています。
比較的乾燥にも強く、房を多くつけてくれるので、世界中で広く栽培されています。
スペインではガルナッチャ、イタリアのサルディーニャ島ではカンノナウなど、その土地の名前を与えられ、馴染んでいるようです。
基本的に、良いワインを作る時には一本の木になる房の数を限定します。
これで味わいがしっかりと詰まったブドウの房が収穫できるのですが、同時に収穫できる量は減ってしまいます。
量と質のバランスは常に悩みどころですが、グルナッシュはある程度量を選択しても飲めるワインが出来上がります。
そのため、比較的安価でコスパが良いワインを多く生み出してくれます。
温暖な気候に適しているため、主に地中海沿いで栽培されています。
日光を豊富に浴び、穏やかに温かい地中海の気候で育つグルナッシュは、濃く、フルーティでおおらかな味わい。
飲み手を選ばない人懐っこい味になります。
一方で、スペインのプリオラートなど、山あいの寒暖差が大きい場所で育つグルナッシュは全くの別物。
ブドウにかかるストレスも大きいため、収量も制限して厳しく質を求める生産者が多くなります。
しっかりとした酸味や鼻に真っ直ぐ立ち上る香り、シャブリを思わせるようなミネラル感があり、緊張感あふれるスリリングなワインになります。
また、こういったスタイルの違いとは別に、グルナッシュは伝統的な甘口ワインとも結びついています。
バニュルスやモーリーといった酒精強化ワインの原料になり、「ランシオ」という太陽光と高温にワインを晒す独特の製法が用いられることも。
地中海の伝統と強く結びついている品種でもあるのです。
香り
フルーティで大らかに広がる香り。
良く熟れたイチゴやベリーのフルーツ感と、カカオやチョコレート、ローズマリーやセージなどのハーブの香りが特徴です。
ゴムのような厚みのある香りを伴うことも。
地中海沿岸部で栽培されたグルナッシュは、濃く、広がりのある香立ち。
高めのアルコール度数と相まって、しっかりと香ってきます。
ハーブの香りも、ミントよりはローズマリーやセージなどを思わせ、この地域一帯の岩がちな乾燥した環境と結びつけて「ガリッグ」の香りと呼ばれます。
ピノ・ノワールのように華やかなスタイルに作られる場合も、イチゴやガリッグの香りが感じられますが、より透明感があり、ふわっと鼻に漂うような香り方をします。
同時に、硬水のミネラルウォーターのような無機質的な香りが感じられ、ふわふわっとした全体の香りをまとめてくれます。
なんとなくフルーティでのたっと広がってしまうグルナッシュにおいては、味わい全体にピリッとした締まりを与えてくれる香りがとても大切です。
質の良いグルナッシュのワインからは、無機物を連想させる香りが感じられるものです。
味わい
ボリューム、厚みのある味わいと、アルコール度数の高さが特徴。
香りの印象と相まって、フルーティな味わいが口の中に広がります。
渋み、酸味ともに強すぎず、ゆったりとソフトな印象を受けます。
ローヌ地方、ラングドック地方では往々にしてシラーとブレンドされます。
酸も渋みもしっかりと主張し、折り目正しいシラーの味わいに丸みを与え、優しさや親しみやすさと広がりを与えるのがグルナッシュ。
濃くフルーティなスタイルでも、ピノ・ノワールのような華やかなスタイルでも、丸み、優しさが感じられる品種です。
グルナッシュの主な栽培地
スペイン

原産地とされているスペインではガルナッチャと呼ばれ、幅広く活躍しています。
テンプラリーニョなどとブレンドされて肉厚な味わいをプラスするほか、フルーティで飲みやすいロゼとしても成功しています。
良くも悪くも、濃く、フルーティで、アルコールの高い並みの品質のワインが多く作られます。
これはこれで、スペインらしくゆったりと、味が粗い分懐の広い心地よさがあります。
一方で、スペインの新たな銘醸地プリオラートで栽培されたものは全く違う魅力を持った素晴らしいワインになります。
ゴツゴツとした粘板岩が露出した急斜面という厳しい環境で栽培されたグルナッシュは、禁欲的な修道士たちが開墾したという歴史を思わせるほどに崇高な味わい。
高いアルコールはグルナッシュの香りを最大限に引き立たせ、高い標高や、粘板岩からくる酸味が味わいをスタイリッシュに整えます。
品種の良さを土地が飛躍的に高めた、とても幸運な関係がグルナッシュとプリオラートには当てはまります。
まるでピノ・ノワールとブルゴーニュのよう。
同様にリオハでも高品質なグルナッシュが作られているようで、石灰質の土壌や、標高の高いエリアで新しい可能性が切り開かれています。
フランス

フランスでは南ローヌ地方、ラングドック・ルシヨン地方と主に地中海付近で活躍しています。
その丸く肉厚な味わいから、ここでもブレンドで使われることが多く、多品種と補い合いながら地中海の性格をワインに閉じ込めているようです。
質の低いワインでは、香りが薄く、アルコール度数の高さや妙な青っぽさが鼻についてしまいますが、しっかりしたものは密で濃い香りとゆったり広がる味わいで、飲み手にくつろぎをもたらしてくれます。
どっしりと逞しいジゴンダスや、丸みの中に凛とした表情を見せるシャトー・ヌフ・デュ・パプ、ほんのり甘く大らかなロゼのタヴェルなど、南ローヌでは様々な魅力が花開きます。
南ローヌの最高峰、シャトー・ヌフ・デュ・パプは13品種のブレンドが許可されていますが、例外的にグルナッシュだけで作られるワインもあります。
シャトー・ラヤスが作るシャトー・ヌフ・デュ・パプがその代表格。
しっかりとした濃度と丸み、例外的な軽やかさを備えたラヤスのグルナッシュは、異例でありながらもやはりこの品種の高いポテンシャルを示しています。
ルーション地方では伝統的な酒精強化ワインに仕上げられることもあります。
モーリーやバニュルスが有名で、醗酵途中のブドウ果汁にアルコールを添加して仕上げた甘口ワインになります。
チョコレートとの相性が非常によく、バレンタイン前に百貨店で見かけるようになると思います。
サルディーニャ

地中海に浮かぶサルディーニャ島。
シチリアに次いで2番目に大きいイタリアの島です。
ここでグルナッシュはカンノナウと呼ばれ栽培されています。
サルディーニャ島は海の中の山と呼ばれるほど山岳地帯が多い島なので、ブドウが栽培されているのは海岸沿いのエリアに限られます。
地中海の豊かな日光と強い海風を受けたグルナッシュは、ワイルドなハーブ香や岩塩の香り、そしてザラつく渋みを持つ仕上がりに。
サルディーニャらしい武骨な味わいになります。
南アフリカ

南アフリカでは、ピノ・ノワールのような華やかなスタイルのグルナッシュが目立つように思います。
基本的にはローヌブレンドとしてシラーやムールヴェードルと一緒にワインにされますが、若い世代のワインメーカー達が、よりエレガントに、より軽やかな味わいに仕上げたワインを生み出しています。
彼らに共通しているのは、栽培を大事にする姿勢と、醸造から人為的な工程をできるだけ取り除く手法。
所謂、自然派のワイナリーにこのようなスタイルが多いのですが、南アフリカでは成功を収めていると言えます。
南アフリカに限らず、このようなグルナッシュはオーストラリアやカリフォルニアでも見受けられます。
プリオラートの例とはまた異なった、作り手の思想性を反映したスタイルと言えるでしょう。
グルナッシュに合う料理
- ラム肉のロティ
- タンドリーチキン
- 豚キムチ
- サバのエスカベッシュ
- 煮アナゴ
- 大根の煮物
- ラタトゥイユ
- オリーブのオイル漬け
- 辛口の青カビタイプ
- ハードタイプのチーズなど
オススメのワイン
ラ・パッション グルナッシュ
ルーション地方のグルナッシュ。
地中海沿岸のゆったりしたイメージそのままに、優しく、楽しい香に満ちて脱力した魅力がある平和なワイン。
スカラ・デイ プリオール D.O.Caプリオラート
ガルナッチャ主体にカリニャン、カベルネ・ソーヴィニヨンなどをブレンド。
プリオラートを代表するスカラ・デイの作品は、どれもボリュームのある香りと味わいを持っていながら、飲み込んだ後に重さを全く感じさせない異例のワイン。
崇高という言葉が良く似合う、不思議な味わいです。
モメント・ワインズ グルナッシュ W.O.ウエスタン・ケープ
南ア新世代の作り手のひとつ。
古木を用い、搾りたての果汁をそのまま詰め込んだかのようなジューシーな味わい。
透明感があり華やか、ほんのりと青さや鉱物的な臭みがありますが、気になるほどでもありません。
所謂ピノ系のグルナッシュ。
まとめ
グルナッシュも、他の品種に負けず劣らず面白いブドウです。
濃いもの、淡いもの、ブレンドのものも単体のものもあり、安いものから高いものまで様々なワインが揃っています。
また、アルコール度数が高くなりがちだったり、収量を制限しないとどんどん味が粗くなってしまったりなど、これらの弱点にどう対処しているか、でメーカーの考え方が見えてくるところもあります。
とはいえ、グルナッシュの良いところは、難しいことを考えずとも気楽に楽しめる味が出せるところ。
まずは手ごろなワインで、グルナッシュの楽しさを味わってみてください。