華やかでエキゾチックな香りとボリュームのある味わいで人気のゲヴュルツトラミネール。
栽培されている場所こそ少ないものの、ゲヴュルツトラミネールからは素晴らしいワインたちが作られます。
その華やかさとスパイシーな香りゆえに、一度飲むと忘れられないほどのインパクトが。
今回は皆から愛されるインパクト抜群のブドウ品種、ゲヴュルツトラミネールを見て行きましょう。
パティシエとして製菓店やカフェのマネージャーを経験。レストランサービスを学ぶため、関西のホテルレストランを中心に約10年以上勤務。ワインに興味がありソムリエ呼称資格を取得。
保有資格
・日本ソムリエ協会 ソムリエ呼称資格
・調理師免許
ゲヴュルツトラミネールの特徴
ゲヴュルツトラミネールは、完熟すると果皮が薄紫色になるグリ系品種。
ピノ・グリや日本の甲州と同じで、基本的には白ワインの原料として用いられます。
その特徴はなんといっても華やかでボリュームのある香り。
ライチやバラ、スパイスの香りがグラスいっぱいに広がります。
原産地がどこか、明確にはわかっていませんが、北イタリアのチロル地方、トラミン村が候補のひとつとして知られています。
ゲヴュルツトラミネールとは、ドイツ語で「トラミンのスパイス」というような意味。
スパイシーでエキゾチックな香立ちが好まれてきたことが良く分かります。
名前からも予想できるように、ドイツ語圏(トレンティーノ=アルト・アディジェ州など、北イタリアの一部もドイツ語圏です)や、ドイツと国境を接しているフランスのアルザス地方を中心に栽培されています。
特に、アルザス地方ではグラン・クリュを名乗ることができる4つの「アルザス高貴品種」のうちの一つとして数えられているブドウです。
ちなみに4つのアルザス高貴品種は、主要品種のリースリングを筆頭に、ゲヴュルツトラミネール、ピノグリ、ミュスカと続きます。
また、栽培上の特徴として糖度が上がりやすいことが知られています。
ブドウの糖分を酵母がアルコールに変換してワインが出来上がるため、糖度の上がりやすいゲヴュルツトラミネールから作られたワインは、しばしば高めのアルコール度数または甘味を残した仕上がりになります。
そのためアルザス地方では、過度な成熟を抑える粘土質土壌や、ワインに独特の緊張感をもたらす石灰質土壌を好んでゲヴュルツトラミネールを植えています。
香り
ボリュームのある香立ち。
ライチフルーツの香りに、バラやシナモン、アニス、ナツメグ、ショウガなどのスパイスを思わせる香りが特徴的です。
香り要素が多く、強いアロマティック系品種なので、どのゲヴュルツトラミネールも第一印象は良く、楽し気なイメージを受けます。
味わい
味わいもボリュームがあります。
香り同様のフルーツ香とスパイス香、酸味は比較的穏やかで、後味にほんのりとした苦味を感じます。
ややアルコール度数が上がりやすい傾向にあるブドウなので、
- 後味で嫌な苦みが残らないか?
- アルコールの熱さで味の伸びやかさがかき消されていないか?
が品質判断の目安になります。
また、ブドウの糖分を残したほろ甘いスタイルに仕上げられることも多くあります。
その場合は、心地よいトロみと、香りの艶やかさを強調するように甘味が口の中で膨らみます。
甘口の場合はボトルで熟成させると、より発展した香りの複雑さ、豊かさが楽しめるようになります。
シノニム
トラミナー(北部イタリアなど)、クレヴナー(ドイツ、バーデン地方)
ゲヴュルツトラミネール主な栽培地
フランス
フランスではアルザス地方が中心。
前述の通り、ゲヴュルツトラミネールはアルザス地方の「高貴品種」として扱われており、グラン・クリュの畑で栽培された場合に畑名を名乗ることができます。
グラン・クリュの畑の多くは、太陽を遮るものが何もなく、日照量が多く見込める南~東向き斜面にあります。
また、西側をヴォージュ山脈に守られたアルザス地方の地形は、雨雲の侵入を阻みます。
そのため、ブドウが成熟する晩夏~秋は雨の心配をすることなく、ブドウが十分育つまで収穫を引き延ばすことが可能になっています。
こういった条件が重なり、アルザスの良い畑のゲヴュルツトラミネールは、往々にしてブドウの糖分を残した軽い甘口に仕上がります。
艶やかな香りに負けない、ずっしりしたボディ。
低めの酸味に代わって味の輪郭を定めるほろ苦さがアルザスのゲヴュルツトラミネールの魅力です。
そしてゲヴュルツトラミネールの個性は極甘口のワインにも最適。
前述の理由から、ブドウが熟し切った後も収穫を遅らせ、レーズン状になったものから作られる「ヴァンダンジュ・タルディヴ(Vendange Tardive)」、そして貴腐ブドウを用いた「セレクション・ド・グラン・ノーブル(Sélectionde Grains Nobles)」は、熟成させて真価を発揮する偉大なワインです。
また、ブルゴーニュ地方とスイスの中間に位置するジュラ地方でも、ゲヴュルツトラミネールは活躍しています。
この地ではトラミナーと呼ばれ、同様に香り高いワインを生み出しています。
辛口のものが多く、ペパリーな(コショウの効いた)ニュアンスが良く出ています。
ジュラ地方にはヴァン・ジョーヌという独特の銘酒があるのですが、その原料となるサヴァニャン種も、ゲヴュルツトラミネールが突然変異して生まれたものだと考えられています。
ドイツ
ドイツではリースリングと並び川沿いの斜面で栽培されているものと、アルザス地方に近いファルツ地方、バーデン地方で栽培されているものとが存在します。
前者は引き締まった味と鼻に伸びる香高さ、後者は粘り腰の重心の低いがっしりとした味わい。
スタイルも軽めのものからどっしりと重いもの、甘口のものまで様々です。
イタリア
北イタリアのトレンティーノ=アルト・アディジェ州で主に栽培されています。
アルト・アディジェにあるトラミン村をゲヴュルツトラミネール発祥の地とする説もあり、この品種の栽培に特に力を入れているメーカーも見受けられます。
アルプス山脈の麓に位置する高所特有の透明感ある味わいが特徴。
ゲヴュルツトラミネール特有のライチやスパイスの香りがクリアに、瑞々しく感じられます。
仕上がるワインのスタイルも辛口がメイン。
ゲヴュルツトラミネールにしてはやや軽く、凝縮度が足りないようなものもありますが、上質なものは、香り豊かでもしつこくなく、クリアで清楚な味わいが楽しめます。
ゲヴュルツトラミネールの特徴がわかる!おすすめのワイン
それでは、産地ごとの特徴が良くわかる、おすすめのワインを順番に紹介します。
ドメーヌ・ツィント・ウンブレヒト ロッシュ・カルケール ゲヴュルツトラミネール
アルザス地方の名門、ツィント・ウンブレヒトのゲヴュルツトラミネール。
カルケール=石灰岩まじりの畑で栽培されているため、この品種特有の香高さに加え、ピシッと直線を引いたようなタイトな味の輪郭が感じられます。
方向性の定まった力強い味わい。
フリードリッヒ・ベッカー ゲヴュルツトラミネール トロッケン
ドイツはファルツ地方のゲヴュルツトラミネール。
フランスのアルザス地方から北へ進むとそのままファルツ地方になります。
ほろ甘さを感じる辛口で、アルコール度数は珍しくやや低め。
スタイリッシュな味わいのゲヴュルツトラミネールになっています。
ケラーライ・トラミン ゲヴュルツトラミネール
ゲヴュルツトラミネールの生まれ故郷と目される、北イタリアはトラミン村の協同組合による作。
アルプス山脈の麓に位置するアルト・アディジェでは、高所ならではの透明感あふれる味わいが特徴。
力強さよりも美しさ、飲みごたえよりも軽やかさ、清楚な辛口のゲヴュルツトラミネールです。
ゲヴュルツトラミネールに合う料理
- 豚の角煮
- ベッコフ
- ハーブソーセージ
- ウナギの白焼き
- エビチリ
- チリコンカン
- ジャーマンポテト
- マンステールなどウォッシュ・タイプのもの
まとめ
言いづらい名前とは裏腹に、一度口にしてしまえばもう忘れることは無い特徴的なブドウ、ゲヴュルツトラミネール。
分かりやすく良い香りがするので、ヨーロッパ以外でもチャレンジするメーカーが多々いますが、基本的に伝統国のもののほうが良くできています。
ボディも香りもしっかりしているので、癖のあるチーズや香草・スパイスの多い料理と合わせても楽しい。
まずは辛口~やや甘口のものを食事と合わせて、そして機会があれば素晴らしい極甘口を試してみてください。