多くの老舗ネゴシアンが拠点を構えるブルゴーニュワインの首都、ボーヌがあるコート・ド・ボーヌ地区は、まさにブルゴーニュの顔。
ムルソーやピュリニー・モンラッシェ、シャサーニュ・モンラッシェなどシャルドネの銘醸地があり、また、コルトンやポマール、ヴォルネイなどでピノ・ノワールも多彩な表情を見せてくれます。
また、ニュイに比べて掘り出し物も多い印象があります。
コート・ド・ニュイ地区と合わせてコート・ドール=黄金の丘と呼ばれる銘醸地を紹介します。
パティシエとして製菓店やカフェのマネージャーを経験。レストランサービスを学ぶため、関西のホテルレストランを中心に約10年以上勤務。ワインに興味がありソムリエ呼称資格を取得。
保有資格
・日本ソムリエ協会 ソムリエ呼称資格
・調理師免許
コート・ド・ボーヌ地区の16の主なワイン生産地
コート・ドール南部のコート・ド・ボーヌ地区に入ると、シャルドネの活躍が目立つようになります。
土壌もジュラ紀中期のものが多いニュイに対して、キンメリジャンなどがあるジュラ紀後期がメイン。
主に16の生産地がありますので、気長にご覧ください。
1.赤も白も名産の「コルトンの丘」ラドワ・セリニィ&アロース・コルトン&ペルナン・ヴェルジュレス
コート・ドールの中で独立したコルトンの丘を取り囲むように3つの村があります。
北側斜面を除くそれぞれに畑がありますが、良い畑は東~南東向きの斜面にあります。
ここはニュイとボーヌをつなぐ位置にあり、赤も名産。
いずれも斜面上部に石灰質と泥灰が多い土壌があり、上部がシャルドネ向き、中腹部がピノ・ノワール向きの畑になっています。
- コルトン・シャルルマーニュ
- コルトン
両グラン・クリュは、ペルナン・ヴェルジュレス村を除く2つの村にまたがっています。
石灰岩と粘土質の土壌で、傾斜もきつい上方の畑が白のみのグラン・クリュ コルトン・シャルルマーニュで、鉄分を含む小石の多い土壌の中腹が、ピノ・ノワールが大半を占めるグラン・クリュ コルトン。
特にピノで評価の高い場所は、アロース・コルトン村の北端に広がっています。
(ややこしいですが、グラン・クリュ コルトンの白ワインはグラン・クリュ コルトン・シャルルマーニュを名乗ることが出来ます)
いずれも若いうちは硬く、力強いスタイル。
熟成させて真価が発揮されます。
2.しっかりしたワインの「サヴィニィ・レ・ボーヌ」
コルトンの丘側とボーヌの丘陵側に別れます。
コルトンの丘側は、ペルナン・ヴェルジュレス村から西に引っ込んだ場所にあり、南向き斜面。
きちんと熟した果実のニュアンスと、涼やかな輪郭が特徴です。
ボーヌ側はロワン川に沿った東向き斜面にあり、石灰質と砂の土壌から構造のしっかりしたワインが生まれます。
グラン・クリュは無く、有名なプルミエ・クリュは、バス・ヴェルジュレス、オー・グラヴァン、レ・オー・マルコネ、オー・ゲットなど。
3.沖積土の土壌の「ショレイ・レ・ボーヌ」
アロース・コルトン村、ラドワ・セリニィ村から続く、コルトンの丘の下方部、なだらかな傾斜の村です。
斜面上方から崩れてきた、鉄分交じりの石を含む沖積土の土壌。
グラン・クリュが出来る場所ではありませんが、その分素朴でふっくらした果実味の、使い勝手の良いワインが出来ます。
4.ワインの都「ボーヌ」
歴史的に重要な、ブルゴーニュワインの都。
多くのネゴシアン(買いブドウでワインを作るワイナリーで、所有畑で栽培から醸造まで一貫して行うドメーヌとは異なります)が拠点を構える場所であり、世界的に有名なオスピス・ド・ボーヌのワインオークションの舞台でもあります。
グラン・クリュは無く、プルミエ・クリュの生産が全体の大半を占めています。
広い範囲に畑があるため、場所によって味わいは異なります。
北部では力強いスタイル、南部では比較的まろやか。
ピノ・ノワールは総じて森の下土の香りがある、滋味深いものが多い印象。
5.素晴らしいピノの「ポマール」
グラン・クリュはありませんが、素晴らしいピノ・ノワールを生み出します。
酸化した鉄分を含む土壌があること、ワインの下半身がしっかりと据わっていることから、ニュイのジュヴレ・シャンベルタンと比較されることもしばしば。
ボーヌ側のふくよかなスタイルと、ヴォルネイ側の引き締まったスタイルのものがあります。
有名なプルミエ・クリュは、
- レ・グラン・ゼプノ
- クロ・ド・ラ・コマレーヌ
- クロ・ブラン
- レ・ソーシーユ
- レ・フルミエ
- レ・ジュリアン・バ
- レ・ジュリアン・オーなど。
コント・アルマンが作るクロ・デ・ゼプノなど非常に有名です。
6.華やかさが売りの「ヴォルネイ」
ポマールがジュヴレと比較されるのと同様、ヴォルネイはその繊細な華やかさからシャンボール村としばしば比較されます。
ただ、シャンボール・ミュジニィよりは筋肉質に引き締まった味わいがあり、繊細さと集中力を兼ね備えたような印象を持ちます。
グラン・クリュは無く、有名なプルミエ・クリュはカイユレやシャンパン、サントノ、クロ・ド・ラ・ブース・ドール(ドメーヌ・ド・ラ・プス・ドールの単独所有畑)があります。
また、ムルソーと隣接しており、プルミエ・クリュ サントノは赤は「ヴォルネイ・サントノ」白は「ムルソー」を名乗ります。
7.レ・リオットやル・カ・ルージュなどの「モンテリ」
ヴォルネイとムルソーに挟まれた小高い丘にあります。
ピノ・ノワールはヴォルネイと同じく繊細で滑らか、シャルドネはミニ・ムルソーともいうべき素晴らしさと言われています。
グラン・クリュは無く、プルミエ・クリュはレ・リオット、ル・カ・ルージュなどがあります。
8.シャープな味わいの「オーセイ・デュレス」
モンテリから西に奥まった渓谷にあり、モンテリから続く丘の南向き斜面や、ムルソーに隣り合う北向き斜面があります。
この渓谷沿いが冷たい風の通り道になっており、南向き斜面でもシャープな味わいになります。
穏やかな香立ちと心地よい舌触り。
グラン・クリュは無く、プルミエ・クリュはクロ・デュ・ヴァル、レ・デュレス、ルーニュなどがあります。
9.標高の高い「サン・ロマン」
グラン・クリュもプルミエ・クリュもありません。
オーセイ・デュレスから更に西に奥まった、標高の高い場所にあり、シャープな酸味とミネラル感のワインになります。
そのため、シャルドネの生産が多い場所です。
10.最高峰シャルドネの「ムルソー」
グラン・クリュはありませんが、ピュリニィやシャサーニュと並び、シャルドネの最高峰に位置するワインを生み出します。
熟した果実味やナッツ、バターのたっぷりとした香りとオイリーな舌触りの豊満なスタイルですが、本当の素晴らしさは熟成して初めて現れてきます。
ここ以南でコンブランシアンの硬い石灰岩が地表近くに現れるため、白ワインの産地が続くことになります。
中央にベルジェ川を挟んで北側と南側の丘に分かれますが、とりわけ品質の高いプルミエ・クリュ ペリエール、シャルム、ジュヌヴリエールは南側斜面にあります。
北側はヴォルネイと隣接し、ここでピノ・ノワールを作ると「ヴォルネイ・サントノ」、シャルドネだと「ムルソー」になります。
11.切れ味の良いシャルドネの「ピュリニィ・モンラッシェ」
シャサーニュ・モンラッシェとグラン・クリュを共有、シャルドネの完成された世界観がここにあります。
研ぎ澄まされた刃物のような切れ味鋭い酸味とピュアな味わい。
- モンラッシェ(シャサーニュと共有)
- シュヴァリエ・モンラッシェ
- バタール・モンラッシェ(シャサーニュと共有)
- ビアンヴニュ・モンラッシェ
斜面の上方のシュヴァリエ・モンラッシェは表土が薄く、ミネラル感あふれる鋭いスタイルに、下方のバタール・モンラッシェは粘土質も増えてよりふくよかなスタイルになります。
その他有名なプルミエ・クリュは、
- レ・コンベット
- レ・ピュセル
- レ・シャリュモー
- レ・カイユレ
- レ・フォラティエール
- クラヴァイヨン
- シャン・カネ
などがあります。
12.ブラニィ
ムルソーとピュリニィ・モンラッシェの斜面上にある赤のみのエリア。
シャルドネでワインを作った場合、ムルソー側は「ムルソー・ブラニィ」、ピュリニィ側は「ピュリニィ・モンラッシェ」やプルミエ・クリュを名乗ることができます。
13.こちらも最高峰のシャルドネ「シャサーニュ・モンラッシェ」
ピュリニィ・モンラッシェと名だたるグランクリュを共有し、共にシャルドネの最高峰に立つシャサーニュ・モンラッシェ。
畑はグラン・クリュのあるピュリニー側と、サントネイ側に分かれます。
同時に、ピノ・ノワールからも素晴らしいものが生まれる場所で、歴史的にはシャルドネではなくピノ・ノワールの産地でした。
肉付きが良く鮮やかなピノを生み出します。
- モンラッシェ(ピュリニィ・モンラッシェと共有)
- バタール・モンラッシェ(ピュリニィ・モンラッシェと共有)
- クリオ・バタール・モンラッシェ
その他有名なプルミエ・クリュはレ・シャン・ガンやラ・マルトロワ、カイユレなどがあります。
14.ガメイ村がある「サン・トーバン」
ピュリニィとシャサーニュ両村の間、南西側にある斜面にブドウ畑が広がります。
標高がやや高く、石灰岩の含有量が多い粘土質土壌で、明るく鮮やかな香りのシャルドネが生まれます。
また、ガメイの名前の由来でもあるガメイ村があります。
グラン・クリュは無く、主なプルミエ・クリュはラ・シャルトニエールやレ・シャンブロなど。
15.ピノが盛んな「サントネイ」
シャサーニュ・モンラッシェから続く丘陵の南向き斜面にあります。
しばらく白ワインの銘醸地が続きましたが、ここで再びピノ・ノワールに適した石灰質の茶色い土壌が現れ、ピノが大半を占める産地に。
細やかなタンニンが丁寧に骨格を形作る、整った赤ワインを生み出します。
グラン・クリュは無く、有名なプルミエ・クリュはレ・グラヴィエールをはじめ、ボールガールやラ・マラディエールなどがあります。
16.これからが楽しみな「マランジュ」
サントネイから続く南向き斜面に畑があり、フレッシュさとしっかりしたタンニンのピノ・ノワールを生み出します。
ブルゴーニュの中では1989年認定という比較的新しいA.O.C.です。
コート・ド・ボーヌ地区の主なブドウ品種
コート・ド・ボーヌの主要品種は白のシャルドネと赤のピノ・ノワールです。
どちらも栽培環境を敏感に反映するブドウ。
例えば、シャープな酸味の中から硬水のようなごりっとした固いパワーを見せてくるシャブリに対して、どんどん透明感を増していくピュリニー・モンラッシェでは味わいの系統がかなり違います。
いずれにせよ、良いシャルドネのポイントは、完熟感のある香りや、樽熟成のナッツ・バニラ・バターの風味を上品に支える酸味と味わいの充実感。
10年以上熟成させることで、より奥深い世界を見せてくれもします。
コート・ド・ボーヌ地区のピノ・ノワールは、味わいの充実感があって、足腰の安定した味わいが多い印象です。
中にはサントネイのように、強いインパクトが無いのに魅力的なものもあります。
格付けはブルゴーニュ地方のA.O.C.
ブルゴーニュ地方のA.O.C.は分かりやすいピラミッド構造。
格付けの上から下に向かって、次のようになっています。
- グラン・クリュ=特級(例:ロマネ・コンティ)
- プルミエ・クリュ=1級(例:レ・ショーム)
- ヴィラージュ=村名(例:ヴォーヌ・ロマネ)
- リージョナル=地方名(例:ブルゴーニュ)
格付けが上の物は、収穫量などの制限も多く、より品質の高いものが生まれます。
【ソムリエが選ぶ】おすすめのコート・ド・ボーヌのワイン3選
ブルゴーニュシャルドネの入門「バンジャマン・ルルー A.O.C.ブルゴーニュ・ブラン」
ポマールの名門コント・アルマンで醸造責任者を務めたバンジャマン・ルルーが立ち上げたネゴシアン。
新世代のブルゴーニュ生産者として注目を集めています。
ブルゴーニュ・ブランのシャルドネはピュリニー・モンラッシェ村とムルソー村の畑の物。
勿論村名のものと比べると劣りますが、イメージとしてはムルソーのふくよか完熟感に、ピュリニー・モンラッシェの透明度が加わったようなイメージ。
ブルゴーニュらしい酸の美しさが良く分かる一本です。
高品質なブルゴーニュ・シャルドネの入門としてどうぞ。
ルー・デュモン クルティエ・セレクション A.O.C.ムルソー・プルミエ・クリュ・レ・ブシェ 2009
クルティエというワイン仲買業者によるシリーズで、生産者の名は伏せられているものの、比較的良心な価格で熟成したブルゴーニュ・ワインが楽しめます。
ムルソーは若いうちはたっぷりした果実感とバターのような樽の風味を強く感じますが、熟成するとマッシュルームや森の中のような土の香り、マロンペーストや場合によっては昆布飴のような独特のコクが幾重にも重なり、ワインの熟成の奥深さを存分に楽しませてくれます。
ドメーヌ・パラン A.O.C.ポマール
ニュイのジュヴレ・シャンベルタンと比較されることも多い、ポマールのワインは、若いうちはがっしりした渋みと構造で十分に味わえないこともありますが、熟成するにつれて段々とこなれてきます。
渋みは柔らかくしっとしとし、カカオやマッシュルームの香り、皮製品の香りなど熟成のニュアンスに負けることなく、たっぷりとした果実味が拮抗する、とても素晴らしい味わいに。
少なくとも5年~10年熟成したものを楽しみたい村です。
まとめ
ブルゴーニュのような銘醸地をご紹介すると、どうしても有名なエリアばかりが目立ってしまいます。
しかしながら、ボーヌの特に南側、サントネイやマランジュのピノ・ノワールやサン・トーバンのシャルドネなどは値段も高すぎず、しっかり楽しめるものが多くあります。
ワインショップなどで見かけたら、是非試してみてください。
その他のブルゴーニュ地方については以下の記事を参考にしてください。
ブルゴーニュ地方のワインの特徴とおすすめワイン3選