ワインの世界にとって天変地異に等しい出来事が19世紀末に起こりました。
あの有名な「フィロキセラ禍」です。
フィロキセラというブドウの根につく害虫が、ヨーロッパ中に蔓延し、ブドウ畑を壊滅に追いやりました。
アメリカからやってきたこの害虫に、ヨーロッパのブドウは耐性が全く無く、ほぼ全滅。
幸運にも被害を免れた畑でも、いつフィロキセラの影響が出るとも知れず、植え替えをして耐性のある台木を使わざるを得ませんでした。
この大規模な植え替えのタイミングで、それぞれの産地に植えられている品種はがらりと変わりましたし、フィロキセラに滅ぼされワインの表舞台から姿を消したブドウもありました。
カルメネールはフランスのボルドー地方で栽培されていましたが、このフィロキセラ禍で絶滅してしまったと考えられています。
しかしそれは実は、フランスでだけの話でした。
フランスから遠く離れたチリで、カルメネールとも知らずに、盛んに栽培されていたのです。
今回は祖国フランスで一度滅びたある意味幻のブドウ、カルメネールを見ていきます。

パティシエとして製菓店やカフェのマネージャーを経験。レストランサービスを学ぶため、関西のホテルレストランを中心に約10年以上勤務。ワインに興味がありソムリエ呼称資格を取得。
保有資格
・日本ソムリエ協会 ソムリエ呼称資格
・調理師免許
ソムリエが選ぶおすすめワイン4選
1. まずはコスパの良い「コノスル カルメネール レゼルバ・エスペシャル」
チリの味わいをフレッシュに鮮やかに切り取るコノスルのワインから。
チリのカチャポアル・ヴァレーで栽培されたカルメネールです。
樽熟成のものに一部ステンレスタンクで熟成させたものをブレンドし、力強いビターチョコ風味の中にも鮮やかで新鮮な果実の香りが感じられます。
2. ピリッとした塩味の「テラ・ノブレ カルメネール コスタ」
中央平野で栽培されることが多いカルメネールですが、これは珍しくチリの海沿いで栽培されたカルメネールを使用しています。
海沿いのワインらしいピリッとした塩味を感じる酸味。
ゆったりと熟した大らかな味の中にも、酸味や味の輪郭など要所にピリッと締まったニュアンスを感じます。
このワイナリーはもう一つ「アンデス」という名前で山の麓で栽培されたカルメネールを作っています。
それぞれ栽培された土地の個性が明確で、興味のある方には是非飲み比べをおススメします。
3. 高級だけど確かな「ヴィーニャ・エラスリス カイ・カルメネール」
チリ、アコンカグア・ヴァレーの名門エラスリスから。
アコンカグア・ヴァレーの内陸で作られるカルメネールです。
これはボルドーの1級シャトーやカリフォルニアのオーパス・ワンとのブラインド・テイスティングで1位をとったことで有名になったワインです。
チリといえばカベルネ・ソーヴィニヨンのイメージがありますが、チリを代表する一本としてカルメネールから作られたこういうワインも是非覚えておいて欲しいです。
4. 安くて美味しい「アルパカ サンタ・ヘレナ」
12本買っても約6,000円という驚異的な安さながらも、テーブルワインとしてストックしている方は意外と多いのがアルパカのカルメネールです。
スパイシーさと豊かな果実味が特徴のチリらしい個性のあるワインですね。
カルメネールの特徴
カルメネールはフランスのボルドー地方が原産の品種です。
カベルネ・フランとグロ・カベルネの自然交配で生まれたと考えられており、カベルネ・ソーヴィニヨンとは親戚関係にあります。
熟すのが遅い晩熟型のブドウで、温暖な気候を好みます。
果皮の色が濃く、出来上がるワインもしっかりとした色づきになり、飲みごたえがあるフルボディのワインを生み出します。
以前はボルドー地方で主要なポジションを担っていたといいますが、それもフィロキセラが到来するまでの話。
この害虫によってすっかり畑を破壊されてしまいました。
現在のボルドー地方は、ご存知の通りカベルネ・ソーヴィニヨンとメルローを主体に、カベルネ・フランなどがブレンドされる品種構成になっています。
カルメネールは前述の通り熟すのが遅い晩熟型のブドウで、ブドウの房が完熟しないままだと青い茎のような香りが強く出てしまいます。
そのため比較的冷涼なボルドー地方では品質や収穫できる量が安定せず、フィロキセラ禍をきっかけに、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルローへの植え替えが進んだといわれています。
それではカルメネールが今どこで栽培されているかというと、大西洋を渡った南半球、チリです。
チリにはフィロキセラ以前の19世紀前半に苗木が輸出されており、長い間メルローと勘違いされて栽培されてきました。
また、チリにはフィロキセラが存在せず、ヨーロッパ中が大変なことになっているさなかにも、カルメネールはすくすくと育っていたのです。
確かに、良く熟れた黒系果実の香りと柔らかな舌触り、軽いハーブの香りはメルローと勘違いするのも分からないではありません。
そう、これがカルメネールだと分かったのはつい最近、1944年のことでした。
香り
力強く濃縮した香り立ち。
イチゴジャムやプラムのような濃い果実の香りがあり、アクセントとしてミントやカカオの香りも感じられます。
完熟したカルメネールはオーク樽との相性がとても良く、元々のカカオのような香りと相まってビターチョコレートを思わせる香りになります。
アクセントとなっているハーブらしい香りや、力強く濃縮した果実の風味とあわせて、チョコミントやウイスキーボンボンのような印象を受けることも。
ボリュームのある香りが特徴です。
味わい
パワフルなフルボディ。
ボリュームのある味わいとは対照的に、その口当たりは柔らかです。
チリの温暖で乾燥した環境では、渋み成分も完熟し、まろやかに丸みを帯びた印象を受けます。
人によってはドロッとした濃い液体と感じる人もいるかもしれません。
酸味も渋みもしっかりあるものの、落ち着いてどっしりとした味わいがカルメネールの特徴です。
カルメネールの主な栽培地はチリ

現在カルメネールのほとんどはチリで栽培されています。
熟すのが遅い晩熟型のブドウなので、温暖でかつ収穫期に雨が降らない場所が理想的。
チリは南北に細長く、西と東に山が通った地形をしていますが、その山と山の間の中央平野がこういった栽培環境に合致します。
暑く乾燥したチリ中央平野では、秋口に天候の心配をせずゆっくりブドウが熟すのを待つことができるため、カルメネールもしっかりと完熟。
前述したようなプラムとビターチョコの風味を持つようになります。
とりわけカチャポアル・ヴァレーのペウモというエリアは最上のカルメネールを生み出すのにふさわしい場所。
ボリュームのある香り立ちと釣りあいの取れた、堂々と落ち着いたボディ、高いアルコール度数を全く感じさせない綺麗な余韻が感じられます。
チリのボルドー系ワインといえばまずカベルネ・ソーヴィニヨンのイメージがありますが、カルメネールも負けずチリを代表するいくつものワインを世の送り出しています。
例えば、エラスリスが作る「カイ」やカーサ・ラポストールの「クロ・アパルタ」。
エミリアーナ・ヴィンヤーズの「G」も良いですし、コンチャ・イ・トロの「カルミン・デ・ペウモ」も素晴らしいカルメネールです。
あまり日本で注目されることは無いかもしれませんが、名実ともにチリの代表選手として活躍しているブドウです。
カルメネールに合う料理

- ポークソテー
- ラム肉炭火焼

- カツオ
- マグロ

- 牛蒡の時雨煮
- 肉じゃが

- 辛口のブルーチーズ
- コンテなどハードタイプのもの
まとめ
フランス、ボルドー地方原産ながら、現在はチリを代表するブドウとなったカルメネール。
今やチリの固有品種と言っても過言ではないほど定着していますし、チリならではの味わいでグラン・ヴァンも多く作られています。
また、フルボディでありながら口当たりの柔らかさを併せ持つブドウ品種は珍しく、そういった点でも使いやすいブドウです。
カベルネ、メルローばかりではなく、是非カルメネールを試してみてください。
必ずその魅力を感じて頂けることでしょう。