世界中で栽培されている赤ワイン用ブドウ品種の代表、カベルネ・ソーヴィニヨン。
ワインが好きな人で、この品種を飲んだことがない人はいないでしょう。
誰もが知っている、もしくは誰もが初めに知るべき品種のひとつです。
至る所で栽培されているので、カベルネ・ソーヴィニヨンだけで世界各国の味わいを比べることも可能。
王道中の王道とも言える、カベルネ・ソーヴィニヨンです。
パティシエとして製菓店やカフェのマネージャーを経験。レストランサービスを学ぶため、関西のホテルレストランを中心に約10年以上勤務。ワインに興味がありソムリエ呼称資格を取得。
保有資格
・日本ソムリエ協会 ソムリエ呼称資格
・調理師免許
カベルネ・ソーヴィニヨンの特徴
世界で最も有名な赤ワイン用品種。
カベルネ・フランとソーヴィニヨン・ブランの自然交配から生まれたと考えられています。
時間をかけて完熟する晩熟型のブドウで、比較的暖かで乾燥し、日照豊富な土地を好みます。
カベルネ・ソーヴィニヨンのメッカとも言えるボルドー地方でも、熱を蓄えやすい砂利質の畑を選んで植えられています。
ブドウの皮は厚く、粒も小ぶり。
この皮の部分に香り成分や渋み、色味が詰まっています。
そのため、皮が厚いカベルネ・ソーヴィニヨンのようなブドウは、色濃く香高く、味わいもしっかりと感じられるワインになります。
はっきりした個性があるため、世界中で栽培されていても、カベルネはカベルネという共通した特徴が感じられます。
その土地その土地のブドウとブレンドされることも多く、カベルネ・ソーヴィニヨンらしいカチッとした味の輪郭や、明るい酸味、レッドベリーや仄かな獅子唐の香りをプラスしてくれます。
フルーツに例えるならカシスの香り
香立ちははっきりと、鼻に抜けるように縦に立ち上る香り。
アメリカンチェリーやレッドベリーなどの、酸味をイメージする赤色のフルーツの香りや、カシス、桑の実の香りが中心。
獅子唐やピーマン、場合によってはミントや杉材のような、スーッとする植物の香りがアクセントとしてあり、カベルネ・ソーヴィニヨン独特の涼やかな雰囲気としてとらえられます。
これは、品種が個性として持っている香り。
畑の環境や栽培方法、収穫のタイミングなどでこのほろ青い香りが強く出るか、仄かに出るかなどの違いはありますが、何らかの形で感じられるはずです。
この青さが嫌味なほどに出る場合は、未熟なブドウから作られた質の悪いものとみなされることもあります。
樽との相性も非常によく、往々にしてバリックと呼ばれる225ℓ入りの小さな樽に入れて熟成されます。
樽由来の焙煎香やタバコの香り、場合によってはカカオやチョコレートの香りが加わります。
ボトリング直後の若いものからは、鉛筆の芯やインクのような香りがすることも。
このようにして作られたカベルネ・ソーヴィニヨンは、十分な香りと味わいの要素を持ち、10年、20年と熟成することも可能。
一般的に熟成すると、水分が抜けたもの、枯れたもの、地面に落ちたものをイメージさせる香りになります。
果実の香りは控えめになり、ドライフルーツのような印象。
腐葉土やキノコ、毛皮や枯れ葉のような香りが漂いますが、熟成したカベルネ・ソーヴィニヨンで印象的なものは、杉の香り、タバコの葉やほうじ茶の香り。
香りがスーッと立ち上り、非常に上品な印象を残します。
強い渋みで赤ワインと言えばこの味
渋み、酸味ともにしっかり。
濃く作られていても、果実味を強く感じるスタイルでも、渋みと酸味による味の芯のようなものが中心にあります。
建築物になぞらえて、「骨格」と呼ぶことがありますが、カベルネ・ソーヴィニヨンはこの骨格がとてもしっかりしているワインになります。
なので、他のブドウに比べて、ピシッとしているフォーマルな印象を受けることが多い。
高貴なブドウとして扱われ、偉大なワインを多く生み出すのも頷けます。
この骨格は熟成しても崩れることは無く、逆に構成要素がそぎ落とされたことで一層その美しさが際立ちます。
この見事な骨格はカベルネ・ソーヴィニヨンが持つ基本能力のひとつと言えるでしょう。
500円のワインでも、これは感じることができますし、逆にここがしっかりと成立しないカベルネワインは、あまり質が良くないとも考えられます。
また、素晴らしいワインは液体を飲み込んだ後に残る余韻も整って長いものです。
若く力強いカベルネ・ソーヴィニヨンの場合は、しっかりとした渋みで感じづらいこともありますが、こなれてくると一段と長い余韻が楽しめます。
主な産地と産地による違い
カベルネ・ソーヴィニヨンはローマ時代にビトゥリカと呼ばれていたぶどうと同じだと考えられておりますが、原産地は明確化されていません。
現代では各国で栽培されていますのでそれぞれの産地による特徴を紹介します。
王道を味わうならフランス・ボルドー
フランスのボルドー地方を外しては、カベルネ・ソーヴィニヨンを語ることができません。
ボルドー地方は大きな川が大西洋に流れ込む平地のエリア。
カベルネ・ソーヴィニヨンは熱を蓄え排水性も良い砂利質の畑に植えられますが、他の国のように十分な気温や日照を得られるとは限りません。
そのため、ここでは伝統的に完熟しやすいメルローとセットで栽培され、ブレンドして質の高いワインを作りだしていました。
香りは涼やかで、杉材や仄かな獅子唐の香りが良く感じられます。
カシスやレッドベリーのような果実の香りも、良く熟れて甘い香りというよりは、もぎたての張りがある瑞々しい香り。
清潔で上品な印象と、細身でも引き締まった筋肉を纏うしっかりとした構造があります。
カベルネ・ソーヴィニヨンが活躍するのは、砂利質の畑が多い左岸エリア。
メドックやグラーヴ地区のものから探してみるとよいでしょう。
イタリア
イタリア、特にトスカーナ地方沿岸部とカベルネ・ソーヴィニヨンの相性は非常に良いようです。
トスカーナ地方を代表するブドウ、サンジョヴェーゼにブレンドされることも多々あり、ともすれば野性的な味わいになるこのブドウを上手にカバーしてくれます。
カベルネ・ソーヴィニヨンが中心のワインは、沿岸部で作られることが多く、有名なサッシカイアやオルネライアも沿岸部のボルゲリ地区にあります。
地中海のゆったりとした果実味が感じられますが、味わいは予想以上に上品。
カベルネらしいしっかりとした構造と適度な肉付き、軽いハーブの香りと、このエリアに独特のエッジの効いた酸味やザラッと丸い粒子のように感じる渋みが特徴です。
水平線上に沈む西日を遮るものが何もなく、長い時間日照を受けることができるので、晩熟型のカベルネ・ソーヴィニヨンもしっかりと熟すことができます。
チリ
チリは今や世界に誇るカベルネの銘醸地。
多くは中央平野で量産されますが、それでも質の良さは一目瞭然。
乾燥した気候、豊富な日照量、安定した醸造技術で素晴らしいカベルネが多く存在します。
最上のものはマイポ・ヴァレーから生まれます。
特にアンデス山脈の斜面にある標高の高いエリアはプエンテ・アルトと呼ばれ、地理の最上カベルネはほとんどここで栽培されるほど。
乾燥した気候、ごろごろと石が転がる水はけの良い畑、アンデスからの吹き降ろしによる激しい寒暖差。
ゴリッとした骨格と熟してしなやかな渋みを持つ、堂々たるワインになります。
1万、2万するカベルネも勿論素晴らしいですが、チリは2,000円程度のカベルネでも最上のものに匹敵する恐ろしい産地。
ごてごてと作りこまれていない分、素材の良さが素直に表れるので、まずは2~3,000円クラスのものから試すのがおススメです。
アルゼンチン
チリよりも暑く乾燥した気候ですが、カベルネ・ソーヴィニヨンにとっては非常に良い気候と言えます。
アルゼンチンのカベルネ・ソーヴィニヨンはスパイシーで風味が凝縮されていて、なおかつコスパが良いです。
基本的に安めなワインが多いですが、高級品も作られておりマルベックやカベルネ・フランとのブレンドは逸品です。
ルーマニア
ルーマニアはフランスと緯度が近く、似た気候でワインが作られます。
特にムンテニア地方はコート・デュ・ローヌ地方と同緯度で、ブルゴーニュ地方と環境がかなり近くなっており、カベルネ・ソーヴィニヨンは秀逸です。
樽熟成されたものが多く、カシスの熟した香りにスパイスやバニラなどの樽由来の香りが心地よいですね。
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アメリカ・カリフォルニア
アメリカ、特にカリフォルニアのナパ・ヴァレーが有名。
豊かな日照量と温暖な気候、そして湾から内陸まで流れ込む冷たい海風による気温差が素晴らしいカベルネを生み出します。
1976年、まだまだ駆け出しの新興産地だったカリフォルニアのカベルネ・ソーヴィニヨンが、ボルドーの名だたるシャトーを退けて、ブラインドテイスティングで1位になりました。
「パリスの審判」と呼ばれるこの出来事で、カリフォルニアワインは一躍有名になりました。
また、それまで知られていなかった産地でも、努力次第ではフランスと肩を並べる品質のワインが作れるのだ、ということを証明した事件でもあります。
そういったこともあり、カリフォルニアはカベルネ・ソーヴィニヨンの第二の故郷。
ボルドーのものより一回り、二回り大きい香りとボディ。
果実も完熟したアメリカンチェリーやカシスジュースのような印象を受けます。
とは言え、大切なのは味の大きさではなく、全体でのバランスがどうなっているか。
熟しすぎてジャムのような香りばかりのするワインでは、カベルネらしいとは言えませんが、味わいも大きく表現も豊かで、味わいの骨格もしっかりしているとなれば、これはとても素晴らしいワイン。
往々にして、そのような偉大なワインが作られる土地がカリフォルニアです。
オーストラリア
南オーストラリア州のクナワラというエリアが代表的。
気候条件がボルドーに酷似していることで有名な場所で、実際に質の高いカベルネが栽培されています。
オーストラリアにしては涼しい気候と、豊かな太陽光で、メリハリのあるハッキリとした味わいに。
酸味はしっかりと通り、香りの要素がハキハキと主張してきます。
また、カベルネの青い香りはミントやユーカリのようなハーブの香りに近くなります。
西オーストラリア、マーガレット・リヴァーはもっと穏やかな表情のカベルネが栽培されています。
雨量も比較的多く、しっとりとまとまりが良い味わいに。
カベルネ・ソーヴィニヨンの品種に合う料理・おつまみ
カベルネ・ソーヴィニヨンのようにガツッとした赤ワインには濃厚でコクのある料理、脂ののった肉料理がよく合います。
- 豚(スパイス風味、グリル)
- 牛
- 羊
- 鴨ロースト
- 煮込みやソース添え
- 豆科野菜
- キノコ類
オススメのワイン
オー・メドック・ド・ジスクール A.O.C.オー・メドック
フランスはボルドー地方、格付け3級のシャトー・ジスクールがお手軽版として作るワイン。
カベルネとメルローが半々くらいの比率でブレンドされています。
比較的骨格もしっかりと現れ、味わいの輪郭はカベルネらしい硬質で背筋が伸びた印象。
ボルドーの上品な雰囲気が十分感じられます。
スタッグス・リープ アルテミス カベルネ・ソーヴィニヨン AVAナパ・ヴァレー
「パリスの審判」で有名なスタッグス・リープが、ナパ・ヴァレーの優良畑から集めたブドウで作ったカベルネ。
表情豊かでボリュームがあり、同時にそれを支える味わいの安定感も。
果実はカシスやプラムなど熟れたニュアンス、甘い香りのスパイスや、樽と馴染んでミルクチョコレートのような滑らかな雰囲気があります。
このボリュームの大きさはナパ・ヴァレーならでは。
コノスル シングルヴィンヤード カベルネ・ソーヴィニヨン D.O.マイポ・ヴァレー
瑞々しい香りとシャープな輪郭、カッチリとまとまった味わい。
チリのプエンテ・マイポで栽培され、香りの表現力が非常に高い。
カシスに加え、チェリーリキュールのような果実の風味、ミントやカカオ、タバコの葉のような香りがあります。
チリのマイポ・ヴァレーとカベルネ・ソーヴィニヨンの相性の良さを如実に示す一本です。
まとめ
カベルネ・ソーヴィニヨンの強い個性は、世界中の至る所で偉大なワインを生み出すほど。
色々なカベルネを飲んでいると、ただボルドー地方の高級ワインの真似事をしているわけではないということが良く分かります。
カベルネの個性を掴み、毎日のワイン生活に活かしていきましょう。