ボルドー地方は、ブルゴーニュ地方と並ぶフランスワインの頂点。
5大シャトーと呼ばれる代々の名門や、ガレージワインと呼ばれるような極小規模から上り詰めたシャトー・ヴァランドローのようなカルト的シャトーなど、一級品がずらりと並ぶ産地です。
赤はメルローとカベルネ・ソーヴィニヨン、白はソーヴィニヨン・ブランとセミヨンという品種をブレンドするような、ブレンドのワインが基本です。
区画の特徴ごとに小さく分割して栽培もしますが、それはブレンドの精度を高めるためでしかありません。
風景そのものがワインになったようなブルゴーニュと違い、パレット上の色を巧みに使い絵画を描く、人間の営みを通して自然を描き出すのがボルドーワインとも言えるでしょう。

パティシエとして製菓店やカフェのマネージャーを経験。レストランサービスを学ぶため、関西のホテルレストランを中心に約10年以上勤務。ワインに興味がありソムリエ呼称資格を取得。
保有資格
・日本ソムリエ協会 ソムリエ呼称資格
・調理師免許
ボルドー地方の主なワイン生産地

ボルドー地方を特徴づけるのは、大きな川。
ガロンヌ川とドルドーニュ川が合流し、ジロンド川と名前を変えて大西洋に流れ込むその一帯に、畑が広がっています。
大西洋と畑との間にはランドの森があり、適度に海の安定した気候を受けることができます。
降雨量は年間900mmと比較的多いため、畑には水はけの良さが重要。
水が溜まりやすい場所では排水用の暗渠を整えるなどし、畑の環境を人が作ってきました。
ワイン生産エリアは、
- 川の左岸
- 右岸
- 中央部
の3つに大別されます。
左岸は砂利が多く、熱を蓄え乾燥するため、晩熟型のカベルネ・ソーヴィニヨンが主体になります。
メドック、オー・メドック、グラーヴ、ペサック・レオニャンなどがこのエリア。
更に南側には、世界最高峰の甘口のひとつを生むソーテルヌがあります。
粘土や石灰が多い右岸は、ひんやりと湿度を蓄え、早熟型のメルローがゆっくりと完熟していくのを助け、この品種を中心にブレンドが組み立てられます。
世界遺産のサン・テミリオン、ポムロールやコート地区と呼ばれるエリアがここに入ります。
そして、ガロンヌ川とドルドーニュ川に挟まれた中央部は、アントル・ドゥ・メール(=「海の間」の意)。
比較的早飲みのワインを生み出します。
エリアごとに詳しく見ていきましょう。
高級銘柄も多い「メドック地区」

ガロンヌ川に流されてきた小石や砂利が堆積した土壌がメインのエリア。
カベルネ・ソーヴィニヨンを中心にしたブレンドが多くなりますが、川の下流に向かうにつれ粘土質の畑も増えてくるため、メルローの比率が高まります。
上流のA.O.C.オー・メドックと、下流のA.O.C.メドックに分かれ、有名な格付けシャトーは上流のA.O.C.オー・メドックに固まっています。
格付けシャトーとは、1855年のパリ万博の際に認定された、ボルドーの頂点を極める61のシャトーのこと。
1級から5級までのランクに分かれており、1973年にシャトー・ムートン・ロートシルトが2級から1級に昇格した以外は、不動のまま現在に至っています。
A.O.C.オー・メドックには、村名を名乗ることができるA.O.C.があり、それぞれが独自の特徴を持っています。
酸味のはっきりした「サン・テステフ」
北側の村で、他の村名A.O.C.に比べると酸味がはっきり出る傾向に。
どっしり・がっしりした印象は少なく、どちらかというと輪郭のはっきりとした緊張感のあるスタイルです。
畑は軽い砂利の表土と粘土石灰質の下層。
鉛筆の芯の香り「ポイヤック」
この村の特徴としてよく言われるのが、「鉛筆の芯」の香り。
鉛筆削りを使った後の、あの香りをイメージしてもらえると近いと思います。
酸味があり、味も詰まった印象で、引き締まったタイトな力強さがあります。
静かなワインが印象的な「サン・ジュリアン」
サントリーが経営に加わり、華麗な復活を遂げたシャトー・ラグランジュがある村。
やや硬く静かなワインが多い印象で、しっとりと落ち着いたパワーが感じられます。
むちっと濃厚な「マルゴー」
村名A.O.C.の中では上流にあり、濃くしなやかな味わい。
目が詰まったむっちりとした濃さがありますが、全体が整っており、滑らかな舌触りがあります。
丸みのある「ムーリス」
ジロンド川からやや離れた場所にあり、丸みのある味わいに。
肉厚な味わいの「リストラック」
こちらも川からやや離れた場所にあり、石灰質と砂利質の台地にブドウが植えられます。
しっかりとした構造の肉厚な味わい。
メルロー主体の「グラーヴ地区&ペサック・レオニャン地区」

メドック地区よりも上流、ガロンヌ川の左岸に広がるエリア。
グラーヴ地区は砂と粘土質の畑で、メルローを主体にブレンドされます。
ぺサック・レオニャン地区は1987年にグラーヴから独立した地区。
ごろごろと小石が転がり、砂利、砂岩、粘土が入り混じる土壌です。
しっかりと熟したカベルネ・ソーヴィニヨンを中心としてブレンドされる赤には熱量があり、がっしりとした構造と共にスケールの大きな味わい。
メドック地区外からの唯一の格付けシャトー、シャトー・オー・ブリオンがある場所です。
また、このエリアではフルボディの白ワインも素晴らしい出来栄え。
セミヨンとソーヴィニヨン・ブランのブレンドで作られ、トロピカルな香りと分厚いボディを持つ、長期熟成向きのものが生まれます。
最高級ワインの多い「ポムロール地区&サン・テミリオン地区の右岸エリア」

ドルドーニュ川の北側に広がる、右岸エリア。
世界遺産に登録されているサン・テミリオンと、小規模でありながら世界最高峰のメルローを生み出すポムロールが有名な地区です。
石灰岩と粘土の高台に広がるエリア「サン・テミリオン地区」
濃く詰まった果実味とそれを締め付け引き締めるタンニンや酸の輪郭から筋肉質な印象を受けます。
往々にしてカベルネ・フランがブレンドされ、良質のものにはスッと上方に立ち上がるような気品が見られます。
1954年から始まった、サン・テミリオン独自の格付けがあり、こちらはメドックとは違って10年に一度見直しがされます。
上から順にプルミエ・グラン・クリュ・クラッセA、プルミエ・グラン・クリュ・クラッセB、そしてグラン・クリュ・クラッセがあります。
最上級のプルミエ・グラン・クリュ・クラッセAにはシャトー・オーゾンヌとシャトー・シュヴァル・ブランが君臨していましたが、2012年の格付け改定の際にシャトー・アンジェリュスとシャトー・パヴィが加わり、合計4シャトーの格付けになりました。
また、サン・テミリオンの北側に、衛星地区と呼ばれる4つのA.O.C.があります。
こちらも粘土石灰質の土壌から、引き締まった力強いワインを生み出しています。
力強い「ポムロール地区」
ポムロールは、サン・テミリオンの北西に隣接する小さな地区。
粘土石灰質土壌に、酸化した鉄分を含んだ土壌が特徴です。
サン・テミリオンに比べて、完熟したメルローの濃く甘い香りが前に出てくる傾向に。
メルローのふくよかさと、土壌や作り込みからくるがっしりした構造が組み合わさり、類まれなパワーを持ち合わせます。
その他の右岸エリアも優れた地区が多い
右岸では上記の2地区が有名で、他のエリアは一般に忘れられがちです。
しかしながら、この辺りは粘土石灰質土壌が続いており、引き締まったメルロー主体の優れた赤ワインが生まれます。
カノン・フロンサック地区、フロンサック地区はリブルヌの町を隔ててサンテミリオンの西隣にある銘醸地。
粘土石灰質のカノン・フロンサックはサン・テミリオン同様の筋肉質なメルローを生むことで有名です。
質は有名な2地区に肉迫しますが、知名度が低いためやや価格は抑えめ。
狙い目のエリアとしておススメです。
それより更に北西へ進み、丁度ドルドーニュ川がジロンド川に変わる辺りにあるコート・ド・ブールも同様で、中々しっかりとしたワインを作る場所。
多様な土壌があり、粘土石灰のピシッと引き締まったものや、香り豊かなものなど。
逆に東側の上流に向かった場所にあるカスティヨン・コート・ド・ボルドーなどは比較的お手軽でフルボディの赤ワインが生まれます。
フレッシュな白が美味しい「アントル・ドゥ・メール地区」

ガロンヌ川とドルドーニュ川に挟まれた、「2つの海の間」という意味の名前を持つ地区です。
フレッシュで爽やかな白ワインを作る場所。
ソーヴィニヨン・ブラン主体にセミヨンで厚みを持たせ、ミュスカデルでフローラルな香りをアクセントに加えるブレンドが大半で、比較的気軽に楽しめます。
メルロー主体の赤もなだらかで飲みやすく、日常の中で楽しめるワインが豊富に作られています。
甘口エリア「ソーテルヌ&バルサック地区」

ガロンヌ川左岸にある甘口のエリア。
真ん中にシロン川を挟み、南がソーテルヌ、北がバルサックです。
※バルサックで作られた甘口白もA.O.C.ソーテルヌを名乗ることができます。
水量の異なる2つの川がぶつかる場所のため、水温の違いでこの辺りは午前中に霧が出ます。
そのため、高貴な甘口ワインには欠かせない貴腐菌が発生。
貴腐菌がブドウの皮に開けた穴から、水分が蒸発し、レーズン状に濃縮したブドウが収穫できます。
霧が出ると言っても、一日中じめじめとしていたらそれはブドウを腐らせる病害となってしまいます。
この辺りは日当たりも良く、太陽光で午後には霧が晴れるため、貴腐菌とブドウが共存する理想的な環境が保たれるのです。
バルサック、ソーテルヌともに土壌は粘土石灰質。ソーテルヌはその上を砂利や小石が覆います。
特に、シャトー・ディケムは標高の高い丘の上にあり、日当たり良好な畑で世界最高峰の甘口ワインが作られています。
ガロンヌ川を渡った向かい側にカディヤック、ルーピアック、サント・クロワ・デュ・モンの3つのエリアがあります。
ここはソーテルヌに比べて甘さ控えめのさっぱりとした甘口を作ります。
ボルドー地方の主なブドウ品種
ボルドーワインの基本はブレンドです。
赤はカベルネ・ソーヴィニヨンとメルローのどちらかを中心にブレンドを組み立て、そこにカベルネ・フランやマルベックなどが入り込むこともあります。
白はソーヴィニヨン・ブランとセミヨン、香りづけのようにミュスカデルが入ります。
代表する黒ブドウは「カベルネ・ソーヴィニヨン」
カベルネ・ソーヴィニヨンは言わずと知れたボルドーを代表する黒ブドウ。
乾燥した気候を好み、ブドウが完熟するのに時間はかかりますが、その分得るものは大きい。
フルボディのしっかりした味わいになりますが、その中にスッと一本線が通っているような気品のある雰囲気がカベルネ系の特徴です。
これはカベルネ・フランも同様。
濃くても香りは潰れず、背筋を伸ばしたようなスタイリッシュな味わいがあります。
しっかり熟れた果実の中に、軽く杉やハーブのような清々しい香りがあり、どっしりしていても新鮮な酸味が全体を貫きます。
口当たりがたまらない「メルロー」
カベルネ・ソーヴィニヨンと双璧を張るメルローはふくよかな果実味と滑らかな口当たりが特徴。
基本的にはフルボディで重たくても、口当たりが良くするっと入ってしまいます。
どこか風通しの良さを感じるカベルネ系とは逆に、メルローは濃くしていくとどこまでも目が細かく密に詰まっていきます。
適度な湿気を好み、粘土質土壌との相性が広く知られていますが、右岸の石灰質を含むエリアではそこにタイトさが加わり、味わいに継ぎ目がない印象。
カベルネを骨組みにしてメルローで肉付けするようなブレンドもあれば、びっしりと目が詰まったメルローにカベルネで風を通すようなブレンドもあり、それはシャトーごとに様々な哲学があります。
脇役だが高いブレンド率の「カベルネ・フラン」
カベルネ・フランは補助的に使われることが多いですが、サン・テミリオン・プルミエ・グラン・クリュ・クラッセAのシャトー・オーゾンヌやシャトー・シュヴァル・ブランは例外的に高いブレンド比率でワインを作ります。
しっかりと熟し、いくら厚いボディであろうと軽やかさを失わないブドウ品種で、最良のものには独特のしなるような味わいがあります。
ロワール地方では赤の主役です。
フレッシュな「ソーヴィニヨン・ブラン」
白ブドウのソーヴィニヨン・ブランは、芝生やハーブ、青い爽やかな香りとトロピカルフルーツの果実味が特徴。
味わいも爽やかな酸味が感じられることが多く、フレッシュさが心地よい白ワインになります。
ブレンドで使用される「セミヨン」
セミヨンは、厚みのあるボディとナッツのようなコク。
ソーヴィニヨン・ブランに深みを与えるようにブレンドされることが多い品種ですが、熟成させるとどんどん主張してくる面白い一面もあります。
ボルドー地方のエリアごとの格付け
ボルドーにはエリアごとに格付けがいくつかあります。
メドック地区の格付け
1855年のパリ万博の際に、ナポレオン三世の命により作成された由緒ある格付け。
当時の名声と取引価格を反映したもので、1級から5級まで、合計で61のシャトーが格付けされています。
基本的に1855年当初から変更のない不動の格付けですが、例外としてシャトー・ムートン・ロートシルトが1973年に2級から1級へ昇格。
また、シャトー・オーブリオンがメドック地区ではなくペサック・レオニャン地区から選出されています。
- シャトー・ラフィット・ロートシルト
- シャトー・ラトゥール
- シャトー・マルゴー
- シャトー・ムートン・ロートシルトが
- シャトー・オーブリオン
全部で61シャトーありますので、興味のある方は検索してみてください。
グラーヴ地区の格付け
1953年に作成されたグラーヴ地区の格付け。
メドック地区でも格付けされているシャトー・オーブリオンを筆頭に、シャトー・オー・バイィやシャトー・パプ・クレマン、シャトー・カルボニューなどが名を連ねます。
グラーヴの格付けでは白ワインも対象にされており、シャトー・クーアンのように白のみが格付けされているシャトーもあります。
クリュ・ブルジョワ
1932年にメドック地区で444のシャトーが初めて格付けされました。
メドックの格付けに入ってはいないものの、秀逸なワインを作るシャトーといった立ち位置になっています。
同様の格付けとしてクリュ・アルティザンというものもあり、こちらは所有畑が5ha以下の小規模生産者が対象となっています。
サン・テミリオン地区の格付け
A.O.C.サン・テミリオン・グラン・クリュを対象とした格付けで、10年に一度更新されます。
1954年に初めて交付され、最新のものは2012年に発表されています。
発表の度にそれを不服とするシャトーからの訴訟があり、最近では迷走しているような印象を与えてしまってはいますが、プルミエ・グラン・クリュ・クラッセに格付けされているものは一流の生産者であると思ってまず間違いはないです。
- プルミエ・グラン・クリュ・クラッセAのシャトー・シュヴァル・ブラン
- シャトー・オーゾンヌ
- シャトー・パヴィ(2012年昇格)
- シャトー・アンジェリュス(2012年昇格)
上記の4シャトーを筆頭に、Bのシャトー・ヴァランドロー、シャトー・パヴィ・マカン、ラ・モンドットなどが揃います。
ソーテルヌ&バルサック地区の格付け
1855年のパリ万博の際に、メドックの格付けと同じく作成され、それ以来不動のものとして今に至ります。
上から、
- プルミエ・クリュ・シュペリュール
- プルミエ・クリュ
- ドゥジエム・クリュ
の3層構造ですが、最上級のプルミエ・クリュ・シュペリュールはシャトー・ディケムのみが格付けされています。
【ソムリエが選ぶ】おすすめのボルドーワイン3選
ル・マルキ・ド・カロン・セギュール
有名な格付け3級シャトー・カロン・セギュールのセカンド・ワイン。
サン・テステフ村のもので、リンクの2015年ヴィンテージはメルロー主体のカベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フランのブレンドです。
チョコを思わせるような香りがありますが、口の中でピシッと味を調える酸味はサン・テステフ村のもの。
ハートのラベルでよく目にしますが、紛れもなく高品質なボルドーです。
エコー・ド・ランシュ・バージュ
ポイヤック村。
格付け5級でありながら、2級に値する味わいとして名高いシャトーのセカンド・ワインです。
水はけのよい小さな丘に畑があり、セカンドのこのワインでもカベルネ・ソーヴィニヨンがブレンドの主体になっています。
鉛筆の芯の香り、硬水のようなミネラルを感じる雰囲気とタイトな濃さで、お手本のようなポイヤックです。
ラ・パルド・ド・オー・バイィ
グラーヴ格付けシャトー・オー・バイィのセカンド・ワイン。
砂利や小石の多いエリアで、ゴロゴロとざらつきのある渋み、果実の熟度を感じるジューシーな味わいが楽しめます。
まとめ
ボルドーは非常な高値で取引される格付けワインから、お手軽なものまで幅広く揃っている、フランスでも最大の一大ワイン産地です。
ボルドーワインの味わいを覚えたいのであれば、手の届く範囲で格付けシャトーのセカンド・ワインやサード・ワインを試してみるのがおススメです。
近年は若いヴィンテージでも既に味わいが開いているものが増えていますので、色々と試して楽しんでみてください。
その他のフランスのワインの地方については以下の記事から参考にしてください。
