ドイツと国境を接するアルザス地方は、歴史上ドイツとフランスの間で揺れ動いてきました。
栽培されているブドウもリースリングやゲヴュルツトラミネールなど、ドイツと共通するものが多く、食文化も類似が多くあります。
基本的に単一品種でワインが作られる土地で、冷涼でありながら日照量も豊富です。
それぞれの品種の表現がフルに発揮された、力強い白ワインがアルザスの魅力です。
パティシエとして製菓店やカフェのマネージャーを経験。レストランサービスを学ぶため、関西のホテルレストランを中心に約10年以上勤務。ワインに興味がありソムリエ呼称資格を取得。
保有資格
・日本ソムリエ協会 ソムリエ呼称資格
・調理師免許
【ソムリエが選ぶ】おすすめのアルザスワイン5選
1.ヒューゲル・エ・フェス ゲヴュルツトラミネール
ヒューゲル・エ・フェスは1639年から続く、アルザスの名門ワイナリーです。所有する畑の半分がグラン・クリュ・クラスで平均樹齢は30年、化学肥料不使用、手摘みで収穫を行う造り手です。
こちらのワインは、グラン・クリュ・スポーレンのゲヴュルツトラミネールが使用されています。
ジュラ紀の石灰質交じりの土壌が過熟しやすいゲヴュルツに引き締まりとフレッシュさを与え、抑制のとれた香りに。
2.トリンバック ピノ・グリ レゼルヴ・ペルソネル
1626年に創業されたアルザス地方を代表する家族経営の名門中の名門ワイナリー「トリンバック」のピノ・グリ。
完熟した堂々たるフレーバーと、どっしりと腰が据わった味わいはまさにピノ・グリの真骨頂です。
3.トリンバック ゲヴュルツトラミネール セレクション ド グラン ノーブル(甘口)
セレクション・ド・グラン・ノーブルとは、粒選り摘み、手摘みの貴腐ブドウを使って作られる甘口のワインです。
AOCアルザス、AOCアルザス・グラン・クリュのみ、また品種は、ゲヴュルツトラミネール、ピノ・グリ、ミュスカ、リースリングのうちの単一品種のみが認められる、高貴で貴重なワイン。
4.ギィ・ヴァッハ グラン・クリュ・カステルベルク リースリング
ギイ・ヴァッハは、1874年から、アルザスのグラン・クリュで唯一のシスト土壌であるカステルベルクでブドウ栽培をしている生産者です。
カチッと輪郭の定まった味わいで、太い軸のある酸がうねります。
奥の方に蜜のような香りもあり、パワフルさと細やかさの同居するとても面白いワインです。
5.ドメーヌ ユージェーヌ メイエー ミュスカ オーガニック
ドメーヌ ユージェーヌ メイエーはアルザスでも南方に位置するBergholtz(ベルゴルツ)村にある、1620年創業の家族経営の生産農家。1969年からビオディナミ農法を実践し、アルザス品種の特徴を生かした、香り高く繊細で気品溢れるワイン作りを行い高い評価を得ています。
上記のミュスカは、みずみずしいマスカットらしい香りが口いっぱいに広がり、爽やかな酸味が口を引き締めてくれる、辛口のワインに仕上がっています。
アルザス地方の主なワイン生産地
アルザスはオー・ラン県とバ・ラン県からなります。
ヴォージュ山脈に守られ、年間600mmという乾燥した大陸性気候が特徴。
そのため、日当たりの良い場所(往々にしてグラン・クリュ)でゲヴュルツトラミネールやピノ・グリなど熟しやすい品種が育つと、アルコールに変換しきれない糖分を残した半甘スタイルになります。
アルザスのワインは基本的に単一品種で作られます。
そこで重要になるのが、ブドウ品種と土壌の組み合わせ方。
粘土などの重い土壌はゲヴュルツトラミネールやピノ・グリに、砂などの軽い土壌はミュスカやリースリングに向くとされています。
また、保水性がありワインの酸を保つ石灰質土壌は、熟しやすいゲヴュルツトラミネールやピノ・グリの過熟にブレーキをかけ、フレッシュさを与えます。
アルザスには51ものグラン・クリュがありますが、全てを一気に覚える必要はありません。
エリアごとに主なものをいくつかご紹介します。
最も乾燥している「中央部(コルマール周辺)」
ヴォージュ山脈が盛り上がり、最も乾燥したエリア。
石灰系の畑も多く、カチッと輪郭の整った味わいです。
グラン・クリュ・シュロスベルグ
リースリングで高名なグラン・クリュ第一号。
ポール・ブランクが有名な作り手。
グラン・クリュ・シュナンブール
石灰を含むマール。
老舗ヒューゲルのトップ・キュヴェ、シェルハマーで有名。
グラン・クリュ・ロザケール
石灰質の畑で、タイトな味わいの長期熟成型リースリングが生まれます。
老舗トリンバックのトップ・キュヴェ、クロ・サン・テューヌがあるグラン・クリュ。
グラン・クリュ・スポーレン
ジュラ紀の石灰・泥灰質。
完熟した芯と整った輪郭を持つゲヴュルツトラミネール、ピノ・グリが生まれます。
グラン・クリュ・シュロスベルグ
花崗岩の土壌から果実味とフローラルなリースリングが生まれます。
ヴァインバックのキュヴェ・テオが出来る場所。
グラン・クリュ・アルテンベルグ・ド・ベルグハイム
例外的に複数品種のブレンドが許可されているエリア。
マルセル・ダイスが混植・混醸の素晴らしいワインを作っています。
グラン・クリュ・ブラント
日当たりの良い花崗岩土壌のグラン・クリュ。
黒色雲母を含む土で、パワフルなゲヴュルツトラミネールやリースリングが生まれます。
グラン・クリュ・ヘングスト
花崗岩質の砂岩と泥灰質が混じった土壌。
ゲヴュルツトラミネールとピノ・グリのグラン・クリュとして名高く、ツィント・ウンブレヒトが長期熟成型のがっしりしたワインを作ります。
ゲヴュルツトラミネールが盛んな「中央~南部」
グラン・クリュ・フォルブルク
石灰岩と砂岩のグラン・クリュ。
フローラルで伸びやかなゲヴュルツ・トラミネールやリースリングを生み出す他、グラン・クリュは名乗れないものの素晴らしいピノ・ノワールが出来る場所。
ミューレのクロ・サン・ランドランが有名。
グラン・クリュ・キッテルレ
砂岩と花崗岩のグラン・クリュで、パワーと抜けのよさを両立した素晴らしいリースリングを生み出す。ピノ・グリやゲヴュルツトラミネールも注目。
グラン・クリュ・ランゲン
グラン・クリュ南端にある、火山性土壌の畑。
急斜面で栽培されており、うねるようなフルパワーのピノ・グリやリースリングが生まれます。
グラン・クリュ・カッフェルコフ
2007年に認定された新しいグラン・クリュ。
アルザスのグラン・クリュでは例外的に複数品種のブレンドが許可されています。
ゲヴュルツトラミネールが中心になることが多く、華やかな香り。
降水量の多い「中央~北部(ストラスブール周辺)」
ヴォージュ山脈が比較的なだらかになり、中央のコルマール周辺と比べて降水量がやや増えます。
パワーよりも透明感やしなやかさが全体的に目立つエリア。
グラン・クリュ・キルヒベルク・ド・バール
泥灰質。
キメ細やかでふっくらとしたワインを生み出します。
ゲヴュルツトラミネールやリースリングが有名。
グラン・クリュ・ゾッツェンベルグ
例外的にシルヴァーナーの使用が許可されているグラン・クリュ。
通常グラン・クリュはリースリング、ゲヴュルツトラミネール、ピノ・グリ、ミュスカの4種類いずれかしか使えないが、ここではミュスカの変わりにシルヴァーナーが入ります。
ジュラ紀の重たい粘土石灰質土壌で育つシルヴァネールは、ねっとりとした重心の低いパワーがあり、まさにグラン・クリュの風格があります。
グラン・クリュ・カステルベルグ
アルザス・グラン・クリュ唯一のシスト土壌。
カチッとタイトな輪郭の下から焼け付くようなパワーがあふれます。
リースリングが有名で、マルク・クライデンヴァイスが素晴らしいワインを作っています。
アルザス地方の主なブドウ品種
アルザスで栽培されているブドウは、ほとんどが白ブドウ。
中でも、グラン・クリュに認可されている4つの品種は「高貴品種」と呼ばれています。
代表品種は「リースリング」
リースリングはアルザスを代表する高貴品種。
フローラルな香りとは裏腹に、力強い酸味と引き締まったボディでフルボディの力強い味わいになります。
辛口に仕立てられることが多く、メインの肉料理に合わせる白ワイン。
数ある白ブドウの中でも、最も素晴らしいワインを生み出すブドウの一つに数えられます。
果実味が素晴らしい「ゲヴュルツトラミネール」
ゲヴュルツトラミネールはライチやバラのような華やかな香りと、たぷんとしたふくよかな果実味で、リースリングと並び有名な高貴品種。
アルコール度数が上がりやすく、往々にしてブドウの糖分を残した甘口スタイルに仕上げられます。
粘土や石灰質を好み、鼻、口の中でぐわっと広がり、後口の心地よいほろ苦味で収束する素晴らしいワインになります。
こちらも高貴品種「ピノ・グリ」
ピノ・グリはゲヴュルツトラミネール同様、ふくよかで果実味に富む高貴品種。
ゲヴュルツの華やかさとは対照的に、朴訥とした素朴な香りが魅力的です。
ナッツやスモーキーな香りがアクセント。
心地よい香りが特徴の「ミュスカ」
栽培面積4~5%程度のマイナーな高貴品種。
軽やかなボディとマスカットのような爽やかで心地よい香りが特徴です。
フルボディ・パワー全開になりがちなアルザス高貴品種のなかで唯一といっていいほど涼しげな香りを振りまきます。
パワーのある「シルヴァーナー」
シルヴァーナーは高貴品種ではありませんが、唯一グラン・クリュ・ゾッツェンベルグでのみグラン・クリュを名乗ることが出来ます。
リンゴのようなやや青みがかった香りですが、口の中では重心が低く、出汁のような一見目立たないパワーが感じられます。
デイリーワインにおすすめな「ピノ・ブラン」
若くフレッシュなうちに楽しむ、アルザスの気軽なワインになります。
ピノ・ブランは爽やかな酸味と洋ナシや白桃のような可愛らしい香りで、ミネラルウォーターのように食事中に飲みたい軽さが魅力。
優しさの感じられる「クレヴネル・ド・ハイリゲンシュタイン」
ジュラで栽培されているサヴァニャンの親縁種、サヴァニャン・ロゼの別名。
ハイリゲンシュタインで栽培されるクレヴネル・ド・ハイリゲンシュタインのみが広く知られています。
素朴でふくよかな味わいで、ゲヴュルツトラミネールやピノ・グリをやさしくなだらかにしたような味わい。
これからが楽しみな「ピノ・ノワール」
グラン・クリュにこそ認定されていませんが、近年めきめきと実力を発揮しているアルザス唯一の赤品種。
アルザスと接するファルツやバーデン(ドイツ)はどっしり熟したピノ・ノワールの産地であることを考えても、今後ますます活躍する品種だと思います。
生産者の中でも、ピノ・ノワールをグラン・クリュ認定の品種にしようという声が上がってきています。
特に名高いものは、フォルブルク、ヘングスト、キルヒベルグ・ド・バールのピノ・ノワール。
グラン・クリュが名乗れないため、大抵は畑の頭文字のみを名乗っています。
リュー・ディなど特徴的な格付け
アルザスでは51のグラン・クリュが認可されています。
基本的には、高貴品種と呼ばれるリースリング、ゲヴュルツトラミネール、ピノ・グリ、ミュスカの内いずれかを使用して作られます。
また、A.O.C.アルザスよりも厳しい規定をクリアしたものは、「リュー・ディ」を名乗ることが出来ます。
公式のプルミエ・クリュがないアルザスで、この「リュー・ディ」付ワインが事実上のプルミエ・クリュになっていると言って良いでしょう。
また、アルザスには甘口の規定もあり、A.O.C.アルザス/A.O.C.アルザス・グラン・クリュに付記することが認められています。
遅摘みブドウから作られるものを「ヴァンダンジュ・タルティヴ」、貴腐ブドウから作られるものを「セレクション・ド・グラン・ノーブレ」と呼び、それぞれ品種ごとに最低糖度が規定されています。
まとめ
アルザスは、ここにしかない唯一無二の個性を持つワインが出来る場所です。
加えて、グラン・クリュは殆ど例外なく素晴らしい品質ですが、価格はそこまで高くありません。
アルザス全体の情報がやや見つけ辛いのが欠点ですが、自分で調べたり、飲んで発見する余地が残されているとも言えます。
ワイン好きには一押しの産地。
楽しんで色々と飲み比べてください。
その他のフランスのワインの地方については以下の記事から参考にしてください。
フランスワインの産地や品種の特徴|おすすめ〜高級銘柄